女学生失踪事件
そう時間がたたないうちに分身した奴らは、一人で一人を狙うのではなく、アメティアとノワールの分もこちらに来た。
まるでさっきとは立場が逆の3対1だ。パッシオとの連携をしながら、近接組の合流まで耐える。もしくは後衛組をどうにかして距離を取らせて、状況をリセットするのが良いのだけれど、障壁で囲ってしまったのと、その障壁を解除するだけの余裕が今のところ全くない。
咄嗟にとは言え、二人を守るためにその場で完全に障壁で囲ってしまったのは悪手だった。
「それ、どうした息が上がってるぞ」
「障壁で凌ぐ回数が増えてきているな」
「対策を立てたとはいえ、こうも苦手な戦況では厳しいだろう?」
「うっるさい!!」
ヤケクソ気味に放った蹴りはやすやすと避けられるが、奴も人間か。避けた際に何かをポロリと、懐から落とした。
「むっ?!」
「あっ?!」
「馬鹿者!!」
明らかに狼狽するあいつらを反射的に障壁で吹き飛ばす。パッシオが意図を組んで駆け出すと地面に転がった何か。メモリーカードのようなそのアイテムを俺の手にまで持って来た
『!!―ぁ、や――りまし―――ね!!なん―――き。こん―――がある――て……!!』
そして、また声が聞こえる。声が聞こえて、ドクリと俺の中で何かが疼いた。
「取り返すぞ!!」
「よりによってマザーメモリを落すとは……!!」
「なんてザマだ」
分身した奴らが何か言っているがそれぞれを再び、障壁を乱雑に張って足止めをする。
湧き上がって来るこの感覚はなんだ?
自分の中の何かが突然割れたような、開いたような変な感覚だ。
向かってくる奴らを何度となく妨害して吹き飛ばしていく中でも、私は半ば上の空で自分の中に沸き起こった不思議な感覚に意識を向けていく。
『まさ――…!!―メよ――ろ!!それは、あ――がつか――――メ!!』
ダメだ、もっと早く、もっと防御だけじゃない、妨害だけじゃない。味方の邪魔をせずに、攻撃にも参加できるような、そんな障壁魔法の使い方をしなくちゃいけない。
皆を守るには足りない。全然足りない。皆に守ってもらいながら戦うなら、私だってもっともっと強くならなくちゃいけない。
もっと、もっと、もっと!!もっと!!もっと!!!
『―めっ!!』
早く展開するには?座標を一々指定してるのが遅い。事前にそこに配置しておけるような方法が無いのか?
『それ―じょう――!!』
妨害を成功させるには?一撃で破壊されるのはダメだ。強度を上げる?いや、魔力を練り上げるのにタイムロスが出る。それなら数を増やした方が良い。
『も――なく――ちゃう!!』
攻撃にも参加するには?障壁魔法で攻撃に参加すると何が邪魔になる?そこに障害物になる障壁が残りがちになるのが邪魔だ。
下手をすると味方の動きを阻害するし、敵の盾に使われる可能性がある。そうならないくらいの変化スピードがあればなお良い。
『おね―い!!い――とをきいて!!いい―――ら!!』
常に小さく障壁を展開しておく、それを幾つも、たくさんいつでも変化させられるように……!!
「っ!!アリウムお姉ちゃん、凄い……!!」
「まさか、これ、全部障壁魔法……?!」
私の周囲を極小の障壁魔法が飛び交う。目には映るが障壁としてはあまりにも小さい。手で払えば吹き飛んでしまうような。そんな小さな障壁魔法が無数に、私と例の男とその分身の周りに飛び交う。
「……まるで、花びらだな」
多分、フェイツェイだと思う。集中しているあまりに誰が発したかもわからない言葉だけど、その言葉を聞いて、そうだ花びらだと謎の確信を得る。
花びらみたいに辺りを舞わせて、それをいつでも使える障壁に変化させろ。
無理とか無茶とかそういう話じゃない。やるんだ、それが私が理想とする障壁魔法の使い方!!
『ダメ!!真白っ!!!!!!!』
そうして、私の中でふわりと何かが開く感覚が沸き上がって、その障壁魔法の使い方は完成形へと導かれた。
「無数の障壁魔法?こんな小さな障壁で何が出来ると……?」
「ふふっ、自分の身で、試してみたら?」
訝しむ男を私は不敵な笑みと、言葉通りの行動で返して見せる。
周囲に舞っていた小さな障壁魔法が、一瞬にして大きくなり、男と分身の全身を拘束する。
「なっ?!」
「一枚一枚は薄くて脆くても、これだけあれば一撃では壊せないでしょう?」
一つ一つは確かにもろい。拳の一つも止められない脆い脆い障壁だが、それを身体に無数に取りつけば、身動きすることすら難しくなる。
道理としては無茶苦茶だ。理屈も何もあった物ではない。ただし、魔法なんて元から理屈もへったくれも無いものにわざわざ固定観念をぶつけるのもバカらしい話なのかもしれない。
何せ、今しがた、やろうと思って出来たのだから、それ以上の説明のしようがない。
「『固有魔法』か?」
「た、多分。いや、でもあの魔法自体はただの障壁魔法ですし……。一体、何がどうなって……」
誰しもが困惑する中。私自身も私の身に何が起こってるのか理解していないまま、私は体中に漲る今なら何でも出来そうなほど湧き上がって来る魔力に、ただただ身を任せていた。