到着、スフィア公国
翌日、2人の話し合いは拍子抜けするくらいすんなりいった。
やはり2人とも、特にスミアが意地を張ってしまったこととマヒロさんがキチンと説明をしなかったことがズルズルと気まずい関係を長引かせてしまった原因のようだった。
「……」
「……」
だからと言って、さっきまで仲が悪かった2人が仲良しこよしになるなんてことは流石にない。
口喧嘩が無くなっただけで、逆に昨日よりもギクシャクしているくらいだ。
その様子を魔車を操りながら見て、苦笑いする。まぁでも、そのうちお互いに慣れるだろうから、あとは時間が解決するかな。
「何笑ってるのよ」
「なんて事はないよ。良かったね、仲直り出来て」
「別にケンカしてたわけじゃないわよ。仲直りも何も無いわ」
それを揶揄いだと思ったらしいスミアに睨まれる。それとなく返すとぷいっとそっぽを向かれてしまった。
しばらくはこの調子だろう。それも可愛いものだけど、指摘すると痛い目にあいそうなので口を噤むことにする。
それにしても、2人の仲が悪かった原因というのもフタを開ければ何とも呆れるというか、人によってはそんなことで……。と肩を竦める内容だった。
マヒロさんは、自分の出自のことも含めて後ろめたい感情が常にあって、自分の幸せを率先して手放そうとする傾向があった。
自分を傷つけることで罪悪感を誤魔化そうとしていたのかも知れない。
それが意図してか無意識かは本人しか知らないけど、スミアはそれを敏感に察知してそしてそれがどうしようもなく気に食わなかった。
決して、2人とも互いに害そうというつもりは当然無い。特にマヒロさんは自分の存在そのものを何処かで否定している自傷のようなものだ。
だけどまぁ、それをキチンと感情や行動として外に発散しなかったことがここまで話が拗れた原因だ。
ちゃんと話せば、2人はお互いに納得して、お互いに可能な限り譲歩することで纏まった。
マヒロさんは自分の事を出来るだけ肯定すること。スミアは感情的になる前に自分の考えをキチンと言葉にすること。
それをするだけで2人の関係は自然と回復していくのはこうして見ていても何となく分かるものだ。2人とも恥ずかしがり屋なのだ。
血は繋がっていないとは言っているけどやはり兄妹なんだなと思う。
「スミアのお姉さんたちもきっと頑固なんだろうね」
「上2人はもっと頑固で偏屈だぞ」
「私達なんて可愛いものだよ。一度決めたら曲げないって言えば聞こえは良いけど、本当に頑固で自分の主張を変えることをしないからさ」
うーん、気難しそうだ。お姉さん方に今後出会うことは必至だろうし、せめて嫌われないようにしないとね。
「お前なら大丈夫だろう。少なくとも無意味に人を好き嫌いで判別するような奴らじゃない。敵だと判別された時は、知らんがな」
「急に怖いことを言うね」
帝国の一応王弟である以上、立場的には敵と見做されてもおかしくない。
お姉さん方はスミア以上の実力者。特にマシロ姫に至っては最強と呼ばれる魔法少女達が、勝負をしたら負けるとまで言わせしめているほどという話は聞いている。
防御に特化した魔法を操りながら、変幻自在に操るという障壁魔法と目を見張るような緻密な治癒魔法の使い手。
対して僕は父と兄に剣術を多少習ったくらいだ。護身程度のそれで、勝てるとは到底思えない。
「因みに長姉は現役魔法少女最強の剣士だ」
うーん。いよいよ詰みだ。僕は敵認定されたら1秒も保たないだろう。
スミアとマヒロさんには「だからそうなることはないって」と笑われながら僕達は進む。
道の先には公国の首都の象徴。樹王種と呼ばれる巨大な樹木が遠近感を狂わせるサイズでそびえ立っている。
あんなに大きく見えるのにここからあそこの根元に辿り着くにはあと数日かかると言うのだから驚きだ。
首都に辿り着く頃にはちょうど『千夜祭』が始まる頃だ。本格的に忙しくなる前に、公国領主であるリアンシさんには挨拶をしておきたいところだ。
なんて今後の予定を思い浮かべながら、ほんの少し賑やかになった旅程を楽しむ。
ずっとこんな日が続けば良いのに、こんな平和が当たり前だったはずなのにと思いながら。




