女学生失踪事件
土ぼこりが晴れ、視界が戻る。生憎、あれでは終わってくれなかったらしい。タフな奴め。
「流石に6対1は厳しいな。これだけの魔力も数には勝てんか」
「はっ、一体どんなカラクリかは知らねぇが、大方他人様からパクった魔力ってところだろ?さっきから魔力が泣いてるぜ」
「魔力が泣くとは面白いな。所詮はただのエネルギー。感情も何も無いだろうに」
裂傷やら何やらが窺えるので、ダメージは入ってる筈だけど、立って会話ができる程度の元気はあるらしい。
挙句の果てには治癒魔法まで使い始めた。障壁に治癒、本当にまるでアリウムの男版を見ている気分だ。断固として認めないが。
『やめ―……、―ね―い……』
ついでに魔力が泣いていると言うのは個人的には賛成意見だ。アズールが感じているのがただの勘のそれなのか、明確に聞こえているのかは分からないけど、俺の耳に聞こえているのは泣いているようにも聞こえる。
本当に、この声は何なんだ。
ただ、それよりも目の前のコイツへの対処だ。のうのうと回復行為を見逃すわけが無いだろう。関節を狙って障壁を展開して、ねじ切るように回す。
悪いがスプラッタは避けたいなんて言ってる場合でもなさそうだからな!!
「くっ、物騒が過ぎるんじゃないか?腕と足が持っていかれるところだったぞ」
「そりゃねじ切るつもりだもの」
障壁をまた破壊して難を逃れるが、これで奴は下手に立ち止まれない。立ち止まれば俺にねじ切られる。
回復している暇なんて無いし、こっちは6人がかりで足を止めさせる。
勝ち筋が見え始めた時、奴はまた不敵に笑う。
「魔力だけでは押し切れなさそうだからな。小手先で勝負させてもらう」
【Pseudo Memory!!Assassin!!】
奴はまた妙なアイテム。形状からしてメモリーカードのようなものを取り出すと、素早く左手に刺さっていた同じようなメモリーカード状のアイテムと交換する。
次の瞬間、奴の姿が六人に分裂した。
「なっ?!」
「なによそれっ?!」
突然の事に全員が息を飲む音が聞こえるが、驚いている場合じゃない。一人に対して同じように一人、分身した奴が近づいてきている。
前衛組は問題なく応戦出来るだろうけど、大問題なのは俺たち後衛組だ。
「このっ!!」
「きゃっ!!」
「アメティア!!ノワール!!」
移動スピードが明らかに上がってる。突然の分身と、奴そのものの性能の変化に追いつけなかった俺たちは、後衛としては絶対的に不利な状態の近接戦に持ち込まれてしまった。
「きゅうっ!!」
「おっと!!妖精の方も対策済みか!!一筋縄ではいかんな」
「舐めないでもらえる!!」
俺たちはパッシオがいるからまだ良い。それに、まだかじり始めだけど十三さんからの護身術がここに来て大いに役立っている。
俺の筋力の無いヒョロイ腕よりは、誰だって一定の筋力があって、なおかつ俺は背丈にしては脚が長いと言うことで、主に足技を中心に鍛え始めている。
まだ素人に毛が生えたレベルだけど、魔力を乗せれば当たれば人くらいなら吹き飛ばせる。
「はっ!!せぇい!!」
「キュウッ!!キュッ!!」
「むむっ、接近戦の対策までして来るとは……」
「この前の私達だと思ったら大間違いよ」
「キューイ!!」
俺の蹴りとパッシオの尻尾と炎の連打は幸いにも相手に通用している。だが、俺は俺だけを構っている場合ではない。
「アメティアとノワールの面倒も見なくてはならんからな!!元々近接戦は不得手な以上、そう長くはもたないぞ」
「……ちっ」
「ごめん、アリウム……!!」
「お姉ちゃん……!!」
咄嗟に二人を守るために二人の周囲を障壁で囲った。俺だけならまだやりようがあるけど、近接戦闘が特別不得手な二人を守りながら戦うのは、骨が折れる。