二国間会議、開幕
「……それでも、私は納得がいきません」
諭してみたんだが、サフィーリアはそれでは不満らしい。ふくれっ面になって不満を主張するようすは年相応って感じがするな。
あんまりそういう表情っていうか、普段から背伸びしてるから子供っぽいところは見せたがらないんだが、よっぽどウチがどっかのしょうもない連中に好き勝手言われているのが面白くないらしい。
「お前も頑固だな」
「碧お姉さまが優し過ぎるのです。もっと周囲に――」
「テレネッツァもこんなことじゃ動じねぇよ。お前の姉はそんな柔じゃないぜ?」
サフィーリアの実姉でもあるテレネッツァの名前を出すと渋々といった様子ではあるが、その怒りの矛先を収めた。
全く、身内のことになるとすぐに熱くなるんだ。それがサフィーリアの優しさだけどな。流石はテレネッツァの妹ってところか。
『優しさ』のメモリーの名前の通り、テレネッツァは優しいというか包容力があるというか、姉御肌というか。
ひと言でまとめると何かと面倒見のいい妖精だったことは意思疎通が出来るようになった3年前の戦いからの短い期間で知っている。
今は真白達との相談もあって、テレネッツァとの意思疎通はしない。というより出来ないようになっているのはサフィーリアにとっては良かったのか悪かったのか。
意思疎通が出来ていたのなら、ウチを通じて姉妹の交流も出来ただろうことも考えると申し訳ないことをしたのかとも思う。
ただまぁ、倫理観にもとるってやつか。メモリーの中にある魂は死んだ人のそれだ。死人と意思疎通を自由に出来ちまうっていうのは色々と問題があるだろ?
本当ならメモリーに頼らないでいるのが1番なんだろうが、今はそうも言ってられねぇしな。
いつかは今、私が持っている『優しさ』のメモリーをサフィーリアに返してやらなきゃいけねぇと思ってる。
「ズルいです」
「言ってろ。妹の前で堂々としてんのも姉の仕事なのさ」
それまではサフィーリアの姉はウチだ。責任重大ってほど大層な内容でもないし、ウチからすりゃ慣れたことだ。
今はまだ不安定で成長過程にあるサフィーリアを今まで通り、一人前になるまで見守ってやりゃ良い。
「私も早くお姉さま達みたいになりたいです」
「焦ることはねぇさ。お前なら気が付いたらウチより立派なヤツになってる」
「……そうやって自分のことを過小評価することが1番気に食わないです」
早く大人になりたいなんて言う、如何にも子供みたいなことを言うサフィーリア。それに返すとそのセリフはお気に召さなかったらしい。
別に過小評価してるわけじゃねぇんだけどな。大抵、親より子の方が優秀だし、兄弟だと下の方が頭良いもんなんだよ。
親とか兄姉の失敗とか悪いところを間近で見てるからな。これは統計的な傾向の話でもあるが、実際そういう傾向はあるって話だ。
「そういえばお姉さま。昨日のテニトーレ氏とドゥーシマン氏の動向についてですが、何かありましたか?」
「今のところはまだ何も。報告された内容だと、2人を監視してはレジスタンスの隊員は今回の会議に伴った人混みのせいで2人を同時に見失ったらしいが……」
「そんな都合よく、2人とも見失う偶然があるのでしょうか?」
「さぁな。まだそれ以外の怪しげな行動が見られてねえから何とも言えねぇし、テニトーレのおっさんも、ドゥーシマンもあの後は露店と大道芸をしてんのをそれぞれ確認してるしな」
話は変わって仕事のそれだ。昨日、サフィーリアが帝国から旧ミルディース王国に商売にやって来た2人の不審な行動を目撃。
その不審な行動ってのも監視の目を振り切って路地裏に向かうって言うまだ何とも言えないもんなんだが、サフィーリアの言う通り2人ともってのが気になる話だな。
ドゥーシマンはずんずんと路地の奥へと進んで行ったらしいし、それと入れ替わるようにテニトーレのおっさんが現れたみてぇだし、何とも怪しい。
ただ怪しいからってだけで何が出来るわけでもない。証拠がなきゃ何も出来ねぇし、しちゃいけねぇのが道理だからな。
「思い違いならそれで良いんだがな」
ただの偶然だったらそれが一番だ。そうでなかったとしたら、さて何が出て来るか。




