二国間会議、開幕
翌日、早朝に起きた私はすぐに身支度を整え、軽い朝食を摂ったあと二日目の二国間会議に向けて準備を進める。
昨日が各陣営同士の情報や立場のすり合わせ。そして何より大事だった協力関係の明確な構築とその内容についてだった。今日はそれとはまた違う議題になる。
主にショルシエや帝国についての情報の共有。そして持ち寄った情報から推察するショルシエと帝国の目的などについての議論だ。
個人的には獣の王関連の話を詰めたいところではある。恐らく、ショルシエが深く関わるモノなのだが、その具体性は未だ不明のままであり、獣の王とはなんなのか、そもそも獣とはどんな存在なのか。
かつて太古の時代の妖精界で、各種族を襲い、世界を滅亡の手前にまでおいやったと伝わっているらしいそれの存在が事実だとしたら。
それは今の時代でも変わらない脅威であることは確定的だ。
各地から集まった情報の中に定期的に現れる『獣の王』と呼ばれる存在とその配下。ショルシエがその『獣の力』というのを操っていたという話もあり、ショルシエが直接の関係があると思って間違いない。
『獣の力』は恐らく人の理性を奪い、本能を剥き出しにさせ暴走させるような作用があるのだろう。
この力の働きには覚えがある。そう、隷属紋とビーストメモリーの二つだ。
二つともこの『獣の力』とやらに酷似した作用を持っていて、人の理性や知性を奪い、凶暴化させる性質を持っている。
言い換えれば、人を獣に変えてしまう力だ。隷属紋はそれを魔法で再現し、ビーストメモリーはメモリーの特性に『獣の力』をブレンドしたモノだと考えるのが妥当だろう。
そうなればショルシエと『獣の王』の関係性はますます強く深いものだと分かって来る。もしかしたらショルシエがその『獣の王』とやらである可能性も視野に、広い視野を持ち、沢山の意見を総合して、これらの件については推理していきたい。
特に公国には旧ミルディース王国には残っていない太古の出来事を記した伝記のような物が残っているだろうと思っている。
ここは戦火に巻き込まれて、多くの書物や情報が失われてしまっている。
そういったことが無かった公国の書庫には期待出来るものがあるはず。
ヒントはきっとそこだ。ショルシエとは一体なんなのか。その正体がわかるだけであの魔女を攻略する糸口が見つかるに違いない。
妖精かどうかさえ、私は疑っている。そのためには『獣の王』の正体を突き止める必要性があった。
「――しろ。真白。そろそろ時間だよ」
「あ、ごめんごめん」
「相変わらずなにか考え事を始めると没頭するね。ほら、そろそろ会議場に行こう。気が早い人達はもう集まってるんじゃないかな?」
時間を確認すると会議が始まる15分前だ。あまり早いのも急かすようで良くないと思うけど、だからと言ってギリギリに行くのも問題だ。
議長とか主催の立場だしね、私。このくらいの時間にはせめて行っておいた方が当然良い。
それでもせっかちな朱莉とか、生真面目な紫ちゃんは当たり前の顔をして30分以上前から席に着いているんだろうなぁ。
「資料はこちらに」
「便利になっても、結局最強なのは紙っていうのはいつになっても変わらないね」
「感覚で使えるからね。パソコンやタブレットはそれはそれで便利だけどね」
「一長一短というものですね。書き込むことも訂正することも手軽ですし」
美弥子さんが用意してくれたのは紙の資料。会議場にタブレット端末とかノートパソコンとか、プロジェクターによる画面の共有とか色々出来るんだけどね。
紙は紙で便利なのだ。なんだかんだで保管媒体としての能力もデジタルより良かったりするし。美弥子さんの言う通り、一長一短なだけなんだけど。
「よし、2日目頑張るか」
気合いを入れて臨もう。この会議の成功が世界の未来を良くするものだと信じている。




