女学生失踪事件
見せびらかすように振っている尻尾をもう一度振るう。
パシンっと音を立てて飛んで来た、あるいは流れ弾か、ともかく魔法を大きくした尻尾で弾き落としていたのだ。さっきのはそれを至近距離で撃ち落とした時の衝撃だったのだろう。
自慢気に尻尾をまた揺らしたと思うと、次は周囲にいくつかの小さな火の玉を作り出し、周囲の敵に撃ち込み始めた。
魔法は使えないと言っていたが、大丈夫なのだろうか。
「僕が開発した省エネ魔法だよ。本来の威力には及ばないけど、前よりは力になれる。安心して戦って」
「……そういうの出来るようになったのなら先に教えときなさいよ」
小声でこそこそと話しながら、それじゃこっそりこの魔法を魔法を作った意味がないじゃないかと、パッシオが悪戯っぽく笑う。
そんなところこだわるんじゃないよ全く。ともあれ、これで気にすることがまた一つ減った。
この乱戦の中で、目の前の事に集中できる。
流れ弾や、どさくさに紛れて飛んでくる魔法を、パッシオが尻尾と炎で叩き落す。なんと頼もしいことか、流石は相棒。俺が欲しいものを黙って用意してくれるなんて最高だよ。
「無駄にかったいわね……!!」
「そうでなくては意味があるまい?」
剣と拳で一進一退の攻防を繰り広げているルビーと例の男に再度視線を向け、集中を高める。
ルビーに迫る拳を小さな障壁で止める、止めた瞬間に関節を固めるための障壁を展開するも先ほどと同様に破壊される。
動きをもう少しだけ止められれば決定的な隙になると思うんだけど、やはり上手い。
訓練されている、それ以上に戦い方がスマートで動きに無駄がない。明らかに戦い慣れている。
明らかに、こいつだけは一般人の枠から大きくはみ出している人間だ。
「こっちは終わったぞ!!」
「加勢するぜ!!」
周囲の雑魚の相手が終わったのか、フェイツェイとアズールもこちらに参加して来た。
アメティアは伸びている敵の監視だ。こっそり起き上がって横から撃たれたらたまらないし。
「はあぁっ!!」
「らぁっ!!」
斬ることに特化したフェイツェイと、正面からの力技を得意とするアズールは障壁を多用する側からしたらかなり厄介だ。
フェイツェイは生半可な障壁をなます斬りにしてくるし、アズールに関しては壁を壁とも思わないような攻撃をして来る。
半端な障壁では早々防ぎきれないけど……。
「っ?!」
「あぁ?!」
ガキンッと硬い音を響かせて、二人の魔法具が受け止められる。硬度だけは立派な障壁張りやがって。
驚きで動きが止まった二人を狙った蹴りをこちらの障壁で防ぎ、お返しに四方八方から障壁を殺到させて圧し潰す。運が悪ければぺしゃんこだが、手加減なんて言ってる場合じゃない。
「ふんっ」
だが、それすらも向こうも同じような障壁で押しとどめて来た。クソっ、応用が全然ない代わりに強度だけはやたらとある。
「ノワール!!」
「飛んでけーっ!!」
だけど、これで一瞬動きが止まった。俺の障壁もろとも、ノワールの魔弾で貫く。
「むっ……!!」
「逃がす訳ないでしょう……!!」
障壁を押し返して自分の逃げるスペースを確保しようとして来るけど、そうはさせるか。
押し返されそうになる障壁をこちらも本気で押し戻し、奴を出させるスペースを空けない。ようやく出来たチャンスを不意にする訳ないだろ。
【Memory Boost!!】
『っ?!――てっ!!』
だけど、奴はそのチャンスすらも潰しに来た。奴が左腕に取り付けている、多分魔力の増強か何かをしているアイテムに手を触れると、電子音が響き渡り、また魔力が噴き上がる。
またあの声が聞こえてくるが、もうそれどころではない。
その膨大な魔力を腕に纏わせて、俺たち、主に障壁を貫通させて来る魔弾を放ったノワールとその魔弾をまとめて、魔力の暴力だけで薙ぎ払った。