二国間会議、開幕
「夜の逢瀬とは君も中々やるねぇ」
「そろそろ手が出ても良いでしょうか?」
真白の諸々のケアを美弥子さん達に任せて部屋を出た僕を待ち受けていたのはリアンシ様だ。
今日の分の会議も終わり、さぞや暇なのだろう。僕なんかに構ってないで、紫ちゃんの相手をしてあげたらどうなのかな。
「それとも、婚約者に部屋から叩き出されましたか?」
「よくわかったね。少し愛を囁いたら恥ずかしがって部屋から蹴り出されてね。そういうところも可愛いんだけど、もうちょっと素直になってくれたらなぁって思うんだけど」
「いきなり詰めると嫌われますよ。彼女は案外繊細ですから」
どうやら紫ちゃんをからかいすぎて部屋から追い出されたらしい。
リアンシ様らしいというか、思わず肩を落として溜め息を吐いた僕の気持ちはどうか理解して欲しいところだ。
紫ちゃんは天邪鬼なところがあるからね。魔法少女の中でも特に気難しい性格をしていると思う。
逆に碧ちゃんや千草、要さん、舞ちゃんなんかは付き合いやすい性格と言える。
竹を割ったようなカラッとした性格か、あるいは人懐っこい性格か。
残りの面々は割と捻くれているので要注意だ。直接言うと酷い目にもあう。
「付き合いが長いとよく知ってるんだね。少し妬くよ」
「1年ばかりでしたからすぐですよ。少なくとも、恥ずかしがって素面で向き合わない限りは彼女は貴方を部屋から蹴り出すと思いますよ」
「……痛いところを急に突いてくるねぇ」
おちゃらけているうちは彼女も真摯に向き合ってくれないだろう。
本音じゃないと思って、からかわれていると思われているから部屋から追い出されるんだ。
真正面から、真面目に伝えれば紫ちゃんはちゃんと聞いてくれるんじゃないかな?
天邪鬼の気はあるけど、本気の言葉はちゃんと受け止める努力をする子だと思う。
それを指摘するとリアンシ様はぽりぽりと頬を掻きながら笑う。
いつものヘラヘラとした笑みじゃなく、割と素のものだろう。変に取り繕った感じはしない。
「少し話をしないか。恋路に悩む男同士、作戦を話し合おうじゃないか」
「別にそういうのはーー」
「はいはい、言い訳と建前はどうでもいいって。さっさと行こう。バルコニーなんてどうかな?」
勝手に恋に悩む男同士というひとつの括りでまとめられて僕は否定するけど、完全に無視をされてついて来るように手招きされた。
はぁ、とまた溜め息を吐いて仕方なくついていくことにする。
「随分と城の中を知っているんですね」
「そりゃ子供の頃から何回連れて来られてると思っているんだい。僕とプリムラ姐さんとレクスで駆けずり回ってたからね。ここは昔の僕らの遊び場みたいなものさ」
「成る程」
かつての三大国は王族同士が家族のように仲が良く、外交や会議にと何かにつけて家族全員でやって来ているのも少なくなかった。
それには子供時代のリアンシ様や帝王レクスも含まれていたのなら、いくら王族言えども子供はどこでも無関係に遊び場にするからね。
リアンシ様からすれば、ここは子供の頃に何度も遊びに来た親戚の家みたいなものか。
「逆に君は案外知らないんだね。元々職場だったんだろう?」
「ここは王家のプライベート空間ですから。従者はともかく、騎士の僕には無縁な場所でしたよ」
「あぁ、言われてみればそうか」
王家のプライベート空間なんて、限られた存在しか入ることを許されない場所。
選別に選別を重ねた従者や護衛達しか入れなかった空間であり、武装した騎士がいるような場所じゃない。
そもそも一昔前の妖精界は平和そのもので、王家の方々もかなり気楽に生活していた。
護衛なんて本当に最小限だったんだよ。
それが今じゃこうしてものものしく守らなきゃいけなくなった。世知辛い、とはこういうことを言うんだろうね。
「さて、座ってくれ。なに、ホントに相談ごとでね。君をからかいたくてここに来たわけじゃない。男同士しかいないここで腹を割って話そうじゃないか」
胡散臭いと思ってしまうのは僕のだけではないと思う。それでもまぁ、変に取り繕った感じもしない。
極めて肩の力を抜いたプライベートな雰囲気に、僕は黙って案内されたバルコニーの椅子に腰掛けた。




