獣道
スバルさん達との会話を少々無理矢理終わらせて、私は人でごった返しているサンティエの街の中を足早に進んで行く。
「一体、何処に……」
先程までスバルさん達とお話をしていて、少し気が紛れて気分良く今日の仕事を終わらせ、お姉様のもとへと向かおうとしていたのに要警戒人物が視界の端に映ったことでそれは一旦キャンセルになってしまった。
忌々しいと歯軋りしますけど、だからといって職務を放棄するわけにはいきません。
目をかけてくださったパッシオーネ団長や碧お姉様など、若い私を周囲の妬みやら一方的な悔恨やらから守ってくださっている沢山の方々の期待を裏切るなんて。
そんなバカな真似をするつもりはありませんから。
アグアマリナ家の者として、恥ずかしくない振る舞いを。いずれ再び国が興った時、再び貴族としての地位を飛び戻すために。
それだけを考えてここまでやって来たのですから。
「こう人混みが多いと、探すのも一苦労ですね……っ!!」
背丈の高くないうえに、脚を持たない姿をしている私にとって人の壁というのは思っている以上に高いものです。
妖精なのですから、姿形を変えればいいのにと思うかもしれませんが、見た目を変えるのは魔力の効率が悪いのです。
団長やカレジ参謀長のように、人の姿と妖精の姿を自在に変えられ、魔力の効率もそう変わらないというのは相当にレアケースなんです。
あの2人ですら、そうなるまでにそれなりの月日をかけているはずです。
いきなり背を高くして、脚を生やして歩こうものなら私はマトモに歩ける自信がまずありませんし。
普段がこうして浮かんで移動しているわけですから。
周囲の妖精達からすれば、私のこの姿と移動方法の方が驚きの目で見られますが、私にとってはこれが1番効率の良い姿と移動方法なのです。
私のことはこの辺にしておいて、追いかけている要注意警戒人物の姿を探します。
対象は2人。帝国から来た商人、ソース・テニトーレ。それと同じく帝国出身の大道芸人、ドゥーシマン。
そのうちの1人、大道芸人のドゥーシマンが雑踏の中に消えて行くのを見て咄嗟にその後ろを追いかけています。
ソース・テニトーレと一緒に警戒対象とされた彼等には監視が付いていたはず。
それだというのに、レジスタンスの人員がドゥーシマンの周囲に見えませんでした。
勘違いであるならそれに越したことはありません。ですが、大道芸人であるドゥーシマンがこの人混みの中で芸を見せずに歩いているのもおかしく思います。
「……いた!!」
早足から駆け足、と言っても脚ではなくヒレなのですが人を縫うように素早く移動しながら探していた私はドゥーシマンの後ろ姿を見付けます。
それは大通りから路地裏へと入るための細く暗い道。表通りの商店の裏口くらいしかない、人通りも人目もない場所だった。
私の疑念はますます膨れ上がり、急いでドゥーシマンの後を追います。路地裏の奥に行けば行くほど、見失ってしまうリスクは上がっていきます。
距離を保ちながら、ドゥーシマンの後をつけなければ……!!
ヒレを素早く動かして、路地裏へと飛び込んで行く。右へ左へ、左、右、階段を登って、また右へ。
ドゥーシマンを追って、私は人混みの喧騒から離れ、路地の奥へと踏み込んで行く。
急いで追っているのに、私が曲がるともうその姿は次の分岐路へと入っており、完全に土地勘があることを匂わせる動き。
見失わないように必死に追っていた私は、次の曲がり角を左へと曲がったその時。
「おっと」
「きゃっ?!」
誰かとぶつかり、尻餅をついてしまうのだった。
 




