初めての仕事
「それにしてもさ、こんな厳重な警備で何かしようって人なんているのかなぁ」
こうして警備の仕事をして思うのはそれだった。もちろん、警備なんて意味がないとかそういう意味があるんじゃなくて、こんなにガッチリ守られているのに手を出そうなんて人達がいるのか、シンプルに疑問なんだよね。
魔法少女だけでみても、絶対に世界でも最高戦力がこの場所に集中している。そんなところにどうこうしようって人がいるんだろうか。
人間界でも同じように思った事はあったけど、当事者としてこの厳重さを知ると尚のこと気になるんだよね。
「そりゃ、マトモな奴はこんな厳重な警備をどうこうしようなんて考えねぇだろうよ。マトモな奴はな」
そこまで言われて成程と納得した。そうか、この状況を見て冷静になれる人はそもそもここを狙わないのか。
これだけの警備を見せ付けられても特攻してくるようなヤバい人が万が一でもお偉いさんを傷つけたりしてしまわないようにする。そのための警備。
ヤバい人って何するか分からないしね。こっちはとにかく頭数を揃えて監視の目を増やせば、そのヤバい人を止められる確率も上がるってわけか。
「ヤバいことを考えてる輩を威嚇する意味もあるし、権力の強さを一般人に示したりする意味もないわけじゃないだろうな。今ここにいる自分達は特別だってのをわからせるだけでも、ビビる奴はビビるしよ」
「理由なくそういう立場の高い人を傷つけることで一定の箔を自分につけようという輩も出そうだが」
「それこそヤベー奴だろ。自分の頭で何にも考えずに特攻してくるような、そういう頭のねぇような捨て駒を身体を張って止めんのが警備や護衛の仕事だからな」
うんうん。所謂テロリストの手先という奴だ。人間界でも宗教感の軋轢なんかで起きるテロ事件が度々あるんだけど、そういうのの実行役に使われるのは大体信心深すぎて、他の宗教や考え方を受け入れられなくなってしまった人だ。
ハッキリ言えば、使い捨ての駒だ。自分が死んでも、他の宗教や考え方を持つ人たちを攻撃し傷つけ、少しでも多くの命を奪うことが正義だと思ってしまった人達が使われる。
「いつだって、利用されるのは弱い人なんだよね。強くて力のある人達は自分の思い通りになるように弱い人を使って何かをしようとする」
「胸糞悪い話だがそれが世の中の真実、なんだろうな。私達を指導してくれている人は比較的マトモだと思うが」
「別の意味でぶっ飛んだ思考をしてる人らだとは思うけどな。姫様なんかはありゃ結構極端な実力主義だろ。俺達は認めてもらったけど、そうじゃなかったらまともに意見するのも大変だろうよ」
「えー、真白さんは優しいと思うけどなぁ」
そういうとリベルタさんは渋い顔を、リリアナさんは苦笑いをする。そんなにかなぁ、真白さんは私の話も聞いてくれる優しい人だと思うんだけど。
2人にとっては違うのかな。少なくとも2人はそういうふうには思ってない反応しかしていない。
「大将はお気に入りだろうからなぁ」
「むしろスバルもそちら側なのかも知れないな。アレに自然とついて行けるのだとしたら、中々凄まじい」
遠い目をする2人に私は首を傾げるばかりだ。あまり深く突っ込まない方が良い気がして来たのでこの話はこの辺でお終いにしておこう。変なやぶを突いて何か出て来られるのも嫌だし。
「あら、皆さんお疲れ様です。警備の仕事を任されたのですね」
何か話題がないかと考えていると、近くを通りかかったのだと思う。妖精界ではまだ少ない、見知った人が声をかけてくれた。
「あ、サフィーリアさん。お疲れ様です。巡回ですか?」
「お疲れ様です。そうですね、怪しいモノがいるか、ないかと辺りを回っていたところでした。担当していた時間と地域が終わったので、お姉さまに報告しに行くところです」
声をかけてくれたのはサフィーリアさんだ。青い髪と涼し気な格好。人魚みたいな見た目が目を引く妖精さんで、空中を泳ぐようにして移動する姿は妖精の中でも珍しいんだとか。
元々貴族だったらしくて、碧さんとは何か縁があるみたいでお姉さまと慕っている。レジスタンスでは面倒見が良くて、私達にも良く声をかけてくれる人の内の1人だ。




