女学生失踪事件
「気を抜くとは余裕だなアリウムフルール」
「その気を抜いてる相手を仕留められないなんて、練度が低いんじゃない?」
飛んで来たのは魔法。練度はさっきの連中とは全然違う。明らかに俺を行動不能にすることを目的にした一発だったが、しっかりと防いだ俺は余裕をもって男に笑みと皮肉を返す。
油断していたのはその通りだ。フェイツェイからの非難がましい視線も飛んできているし、後で怒られる覚悟はしておくとして、この不思議な声については後回しだ。
「さっきまで震えてたのがウソのようだな。相変わらず口が達者だ」
「それは、どうもっ!!」
返事と同時に細く伸ばした障壁を奴の額めがけて打ち込む。当然のように避けられたが、そんなのは織り込み済みだ。
もう俺たちの切り込み隊長が動いている。
「ちぃっ!!」
奴の背後に回っていたルビーの斬撃が障壁で防がれ、舌打ちが聞こえてくる。カウンターで魔力を伴った拳が返って来るが、もうそこにルビーの姿は無い。
今度は逆に俺の障壁に拳を囲われ、一瞬固定するのだが魔力を乗せたままの拳でそのまま障壁が叩き割られる。
その間にノワールの魔弾が3発飛んでいくが、すべて障壁で防がれ、もう一度背後に回ったルビーの炎を纏った一振りも、障壁で的確に防がれる。
「なんなのよアイツ!!まるでアリウムの男版よ!?」
「文句言う暇があるなら攻める!!アメティア、援護は!!」
「まだかかります!!」
俺の男版とは失礼な。誰があんな薄気味悪いのと同じだと言うんだ。確かに障壁魔法を最小限に、的確に使っているけど攻撃は魔力を乗せた肉体だ。
と言うことは、障壁魔法を攻撃に転用できるほどの熟知は無い。せいぜい俺の劣化版が正しいだろ!!
頭に文句を並べながら、他の面々の状況も横目で確認する。アズール、フェイツェイ、アメティアの三人は周りの雑魚の掃討だ。
主に今まで戦闘が出来なくて、鬱憤のたまっていたアズールが暴れ回っており、撃ち漏らしをフェイツェイが迅速に、そのサポートにアメティアが回っている状態だ。
あちらは然程時間はかからずに対処が終わるだろう。俺たちはこっちに集中した方が良い。
「噂に聞いていた通りの機動力だな……!!」
「そう思うなら大人しくぶった切られなさい!!」
足裏だけではなく、全身の至る場所から小さな爆発を起こして、ありとあらゆる姿勢と状態から縦横無尽に男に肉薄するルビーの攻撃は凄まじい高速戦闘だ。
あれが全快したルビー本来の戦い方。その全快のルビーの戦いぶりを、あの男はすべて障壁で凌いでいる。
奴も奴で相当な練度だが、今のところ防戦一方。どこかで崩れればチャンスはありそうだ。
「ノワール、狙える?」
「狙ってるけど防がれちゃう」
「障壁は撃ち抜ける?」
「時間が掛かるけど、やってみる」
ノワールの魔弾の特性は、間違いなくその弾速にある。明らかに他の魔法よりも早く、魔法故にある程度の操作も利くそれは、強い武器だ。
ただ、その攻撃を織り交ぜても防ぐとなると、奴の力量は相当なものになる。
以前、クルボレレを追い掛け回していた時はそうでもなかった筈だ。やはり、あの電子音を響かせていたアイテムが何かキーポイントになりそうだ。
『――っ!!――てっ!!』
「また……!!」
そして時折聞こえるこの声だ。一体何なんだと顔をしかめながら、ルビーの補助になるように障壁を展開していると、顔の近くで何かが爆ぜる。
「きゃっ?!」
「お姉ちゃん?!」
思わず驚いて声を上げるが、痛みも怪我も何もない。次の一撃に備えて魔法を練り上げているノワールを片手で制しながら、何があったのかを確認していると
「きゅっ」
いつも通り、肩に乗っていた相棒が、何やら誇らしげに、いつもより随分大きくなった尻尾を振り回していた。