二国間会議、開幕
「……難儀なものだね。君自身は相当に優秀でそれを自分でも分かっているのに、その生い立ちが君自身を縛るなんて」
「すみません」
考えれば考えるだけドツボにハマっている感覚はある。
人間界でやりたいことがあるのも事実だし、自分の中途半端さが王という立場には相応しくないのでないかというのもそう。
自分にその大役が務まるのか不安なのもそう。
時間をかけて自己分析をして、噛み砕けば砕くほどに私には出来そうにないという結論だけが山積して行く。
「いや、良いさ。さっき紫にも言われたけど、僕も人のことを言えたクチじゃないしさ。よく悩むといい。時間は無いけど、少しくらいなら時間を稼ぐくらいなら何とかなると思うしね」
猶予は、もうあまり無いだろう。
決めなければならない。人間として生きるか、妖精として生きるか。
こればっかりはどっちも取ることは出来ない。身体は1つしかないのだから。
「真白、君が好きそうな料理をーー。っと、失礼いたしました。お取り込み中だったようで」
「いや、今終わったところさ。気にしないでくれ」
リアンシさんとの話はこれでお終いだ。
手をひらひらとさせて私の前から立ち去って行くリアンシさんは料理を取ってきたパッシオにおもむろに近付くと何か声をかける。
一瞬だけ険しい顔をしたパッシオを茶化すように背中を叩き
、また何かを言う。
軽く言い合いになってるようだ。パッシオもよく王族に噛み付く。
まぁ、あの2人の相性はあんまり良くないだろうなぁ。
最後にパッシオが手に持っていたお皿からひと口サイズの料理を1つ摘んで、リアンシさんは紫ちゃんの元へとスタスタと行ってしまった。
「何か言われたの?」
「大したことじゃないさ。全く、昔から軽薄な人だよ」
「苦手でしょ」
「……正直ね」
嫌そうな顔をしているパッシオは珍しい。本当に苦手らしい。
一見、どっちもへらへらとしているけど掴みどころが無いのはリアンシさんの方で、パッシオは周囲の緊張をほぐす為の処世術的な側面が強い。
元々軽薄さと掴みどころのなさで本心を悟らせないリアンシさんと、根っこは真面目で頑固なパッシオは似た者同士かと思いきや正反対の性格だったりするわけだ。
特にパッシオはやりにくいだろう。相手は公国の領主、下手なことは言えないのに対してあちらは持ち前の掴みどころの無さでこっちの懐にぐいぐいやってくるのだから。
「これから嫌でも定期的に顔を見ることになるんだろうし、諦めてるよ。幸い、毎日顔を合わせるわけじゃない」
「相当ね」
「仕事には持ち込まないから安心してよ」
そこは最初から懸念材料にしていない。パッシオが自分の感情で不利な状況を作るなんてあり得ないもの。
レジスタンスの団長がそんな木偶の坊だったら、さっさと解任しているところだわ。
「それで何を持って来てくれたの?」
「カボチャとか結構好きだったと思ってね。色々持って来たよ。今はもう日本は真冬だってさ」
「そう、日本はもうそんなころなのね」
妖精界にやって来た頃はまだ真夏だったはずだ。それが真冬となるとこっちにやって来てから半年近い時間が過ぎたということ。
あっという間だ。あまりにもたくさんのことが起こり過ぎてまだ1ヶ月も経っていないような気がするけど、もうそんな時期。
四季の薄い妖精界では中々実感出来ない。そもそもハッキリした四季っていうのが一部の国の特権みたいなものだけどね。
特に日本の四季は世界から見ても稀有なものだ。多くの国では季節なんて2つくらいだったりするものなのだ。
「食べるかい?」
「ん」
チョイスは任せて黙って口を開ける。そうするとパッシオが適当にセレクトしたひと口サイズの料理が口に入る。
もぐもぐと咀嚼するとカボチャの優しく甘い味が口に広がる。うん、美味しい。
「……真白。私は食事についてはよく知りませんが、今したことが行儀の良くないことだとはわかりますよ」
「んんんんんむっ」
ノーヒリスお祖母様の存在を完全に忘れていた。完全にオフの感覚だったのを無理矢理戻して、すぐに飲み込む。
笑って誤魔化そうとしたけど、お祖母様の小言からは避けられそうになかった。




