二国間会議、開幕
「正直に言って、レクスが何を考えているのか僕にはさっぱり分からない。アイツにとってもショルシエは仇のハズだ。プリムラ姉さんに頭が上がらないのはアイツだって変わらない」
「母とは姉弟のように育ったのに、その母を追いやる原因になったショルシエに与しているいる理由……。確かに不自然です」
姉弟同然に育ったのなら、リアンシさんの疑問はもっとも。リアンシさん本人が最も疑問に感じている部分だと思う。
「レクスはハッキリ言って頭がキレる男だ。僕のように捻くれていたり、プリムラ姉さんのように慈愛とカリスマがあったワケじゃないけど、誰よりも自分を律して国の為に尽くすような、そんな奴なんだ」
「聞けば聞くほど、何故ショルシエと共に侵攻を繰り返すのか、分かりませんね」
「僕もそれが納得がいかなくてね。情けない話、それを理解したくなくて今の今まで逃げていた部分もある」
幼少の頃、あんなに仲良かった兄のような存在が、同じく姉と慕っていた人物を窮地に追いやる原因と手を組んだ。
私からしてもあり得ないと思う。普通ならその行動は逆になるはずだ。共にショルシエを打倒するために手を組み、この場に参加していてもおかしくないはず。
そんな人が、どうして。近しければ近しいほど、事情を知れば知るほど、帝王レクスの行動には不可解な点が浮かんで来る。
「私に接触して来たときも、私に対して遠回しな助言なようなものを投げかけて来たんです。あの時対峙した帝王レクスは私が想像していたよりも遥かに真っ当で正直な人に感じました」
「君のところにも来ていたのか。僕のところにもそうさ。拗ねていた僕にワザと火を付けに来たような節が今考えるとあってね。僕に領主として、男としてしっかりしろと叱咤激励して来るような、そんな印象だ」
「私もそうです。私の時も、王として覚悟を決めろという言葉を投げかけられました」
『次は対等な立場で会えることを期待する』。確か帝王レクスが私に投げかけて来た言葉はそういうものだった。
彼は私と次に会うことを望んでいるし、その時は対等な立場。つまり王と王として同じ立場で語り合おうとも取れる。
いわばこの二国間会議のような場を設けたいと遠回しに言っている。そういう風にも聞こえた。
敵国に対して投げかける言葉ではない。しかも既に戦争状態に入っている相手に対して言うのはあまりにも遅すぎる話と言える。
「帝王レクスの腹の内を探る必要があるとは私も以前から思っていました。彼にはもしかすると何か別の意図があるのではないかと」
「僕もさ。もしかしたら、レクスはショルシエを出し抜こうとしているんじゃないか。淡い期待ではあるけど、その可能性を僕は捨てきれない」
目を瞑り、リアンシさんは少しだけ物思いに耽る。その無言の中には私の知り得ない様々な出来事が彼の頭の中を巡っているに違いない。
幼い頃の思い出は絶対に失う事のない心の支えになる。母と父との思い出が私の芯のひとつであるように。
「だから、君には王になってもらいたい。恐らく、レクスにとって都合の良い状況って言うのが君が王になり、三大国が再び妖精国に揃う事こそがアイツの狙いの一つだ」
「ですが、もしそれが罠だったら……」
「君だって一度乗ってるじゃないか。その勘が外れていたのなら、僕らは揃って王としての器じゃなかったってことさ」
確かに、私は一度追撃出来るハズだった帝王レクスと帝国兵に対して追撃を止めさせた。あれは一種の賭けだ。彼がもしかしたら、という薄い期待に私は賭けた。
その時点で罠だのなんだのと言っている資格は無いだろう。
「そんなに王になりたくないのかい? 僕からすれば君はもう既に立派に王の仕事を熟しているようにしか見えないけど?」
「……不安なんです。私にそんな大役が務まるのか」
「意外だね。周囲はもう君は王様だと思ってすらいるというのに、当の君はその自信が無いって言うのかい?」
「私は、一度間違えた側の人間ですから。この場に立っているのもあり得ない程の奇跡の先に偶然掴み取ったものでしかありません。何度も言うように私は色んな意味で中途半端な存在なんです」
いつだって、大役や大きな目標を掲げると脳裏に映るのは過去の私が逃げ出したかつての仕事や父との対話についてのこだ。
振り切ったつもりでも、やっぱり後悔はいつだって私を苛んで来るものだ。どれだけ強くなったつもりでも、私の失敗と間違いと後悔は消えることは無い。
この身に起こった一つの奇跡が偶然にも私にやり直しのチャンスをくれただけなのだ。そんな存在が誰かの上に立つことに私は抵抗感があった。




