瑠璃色の慟哭
「さて、と。お前らのことはしばらくウチが面倒を見る。『激流の魔法少女 アズール』で、諸星 碧だ。同じ姓の奴が他にも3人いるんだが、そっちとは親戚ってヤツだ」
サンドイッチをもう一つ頬張りながら、昴達3人にそれぞれ視線を向ける。
しばらくの間、昴達の面倒を見るのはウチだ。なんせ1番手が空いてる。ようは暇人だ。
基本的な訓練とかを担当して、個別の訓練の時はまた別の人が担当するってところだろうな。
個別の訓練のタイミングは真白とか番長が暇な時だ。まあ、どのみちしばらくは地獄の基礎訓練だ。
基礎が出来なきゃ応用なんて出来ねぇからな。
「私も諸星姓よ。まぁ、妖精界ではあんまり馴染みが無いでしょうけど」
「貴族みたいなものでしょうか?」
「あー、諸星姓は確かに貴族とも言えるんだけどね。人間界の、特に私たちが住んでる国は全員名字を持ってるから」
その辺の説明は人間界に行く機会があってからで良いだろ。諸星家はまたややこしいくらいに特別だしな。
とにかく、真白や番長、パッシオとかも含めて上の立場にいる連中は何かと忙しい。
基礎訓練の面倒まで見てたら他の仕事が疎かになっちまう。だから、最初のうちは基本的にウチが面倒を見ることになるのは、まぁ当然だわな。
「優しいウチが面倒を見る、つっても手を抜いたらブッ飛ばすからな。バシバシいくから覚悟しとけよ」
凄むとぶんぶんと昴とリリアナは首を縦に振ってる。この手の荒っぽい言い方には慣れてるのか、リベルタの方はウッスと返事をしただけだ。
ウチが個別に訓練を請け負うなら、まぁリベルタだろうな。
パワープレイで押して行くスタイルはまぁまぁ似ている。魔法があんまり得意じゃねぇところもな。
属性は風と海属性のウチとはまるで違うが、その辺は発想次第でどうにでもなる。
魔法の柔軟性はこういうところは楽でいい。
「っし、腹ごしらえに散歩でもすっか。お前らも来いよ。まだまともに街を歩いたこともねぇだろ?」
山程あったサンドイッチの殆どを真白とウチ、そして番長の魔法少女3人で殆ど平らげてから、街をぶらつくことを提案する。
他の連中は仕事が溜まってるはずだしな。まずは親交を深めるがてら、雑談しながら散歩がちょうどいいだろ。
「悪いな気を利かせて」
「ウチだけ暇ってのも悪いしな。雑用は任せろよ。サフィー、行くぞ」
「はい、碧お姉様」
この状況の言い出しっぺの番長も何かと忙しい人だ。会長の仕事をほっぽり出してここに来てるんだろうから、戻ったら仕事の山が待ってるはずだ。
雛森さんの悲鳴が聞こえて来るぜ。早く帰さねぇと文句言われちまう。
ヒラヒラと手を振りながら、サフィーを伴って歩き始める。
その後ろを慌てた様子で昴達がばたばたとしながらついて来ていて、笑いながらそれを待つ。
別に置いてきゃしねーって。
「お姉様はお優しいですね」
「ん?そうでもないだろ。別に優しくしてるつもりはねーけどな」
「それが優しいのです。碧お姉様はいつも心に余裕があって、それが周りの人を助けてて……。私にはどうしても難しくて」
「気に病むなよ。それがサフィーの良さだ。ウチは大雑把だからな。サフィーみたいに細かいところに気がつく奴がそばにいると助かるぜ」
昴達を待ってると何でかサフィーが凹んでいる。ナイーブっつーか、繊細っつーか。
ちょっとしたことを気に病んじまうんだよな。自分に完璧を求めるのは悪かねぇが、真白みたいに腹括るところは括らねえとキツいだけだぜ。
何せ、この世に完璧とか、100%ってのがあり得るのは数字の上だけだ。
計算上は絶対に上手くいくことでも、実際にやってみりゃ色んな理由で失敗する。
「お前はよくやってんだよ。ウチが保証すっから自信を持て」
「……はい」
頭をわしゃわしゃと撫でながら、大丈夫だと声をかける。
多分、目の前で自分以上の才能や能力を持つ奴がどんどんと現れて焦ってんだろうよ。
気持ちはわかるぜ。自分には何も出来ないんじゃないかって無力感ほど怖いものはねぇ。
大概それは勘違いだ。それをわかってくれりゃ良いんだが、サフィーの性格だとちっと長引きそうなんだよな。




