女学生失踪事件
汚部屋の確認も程々に更に足を進めると、次に現れたのは天井も一段高くなり、開けた空間だった。
かなり広い、通路の分岐も幾つもあるようで、いよいよここから先は本格的にアリの巣のように細かく分岐した、本当の探索になりそうだ。
「あえて該当しそうな名前を言うなら、ここがエントランスホールでしょうか。見取り図でもあればいいんですけど」
「そんなのあったら目的地まで一直線だから、無いでしょうけどね」
あえて分かりやすくこの空間を呼称するなら、エントランスは無難な表現だと思う、ただし、地下な上に便利な案内表示板は無い。ルビーの言う通り、何かあった時に目的地まで一直線に来られてしまうからな。
「……きゅい!!」
「やれやれ、まさか短期間でここまでやって来るとはな。敵が優秀過ぎるのは困ったものだ」
ここからどうするか、短いながらも作戦会議が始まろうとした時、パッシオの鋭い鳴き声と聞き覚えのある男の声が俺たちの耳に届く。
「ようこそ、我らの地下研究施設へ。とは言えアポイントメントも無い上に、見つかってしまったせいで急遽破棄する羽目になったがな。全く、よもやいくつか用意していたデコイ(囮)ではなく、最短で本命に来られるのは予想外が過ぎると言うものだ」
「へ、そいつは良かった。おかげでこっちはすぐに用件が済ませられそうだぜ」
全くと肩を竦めるような動作をした男にアズールが軽口を叩いて返す。
彼女は、いや、他の魔法少女達も全員が臨戦態勢だ。固まっているのは、俺だけだ。
その声を聴いた瞬間に、明らかに心拍数と呼吸の量が多くなった。ダメだ、耐えろ。敵の前だぞと言い聞かせるが、身体が震えて言うことを聞かない。
「とはいえ、そちらもお荷物が一人いるようだな?アリウムフルール。くくくっ、貴様の事は隙あらばと思っていたのだがな。中々市街地では姿を見つけられなくてな、その様子ならあっという間に捕らえられただろうに」
「っ……っ!?!お、前……っ!!」
そうだ、奴は俺の変身前の姿を見ている。見られている、ずっと狙われてた。狙われてて、そのせいで委員長が攫われた……?
だとしたら、俺が学校に行ってたせいで、他の誰かも狙われるようになっていたのか?
奴の発言で、日頃から俺が狙われていたことが明確に示される。そこまで固執される理由は分からない。分からないけど、俺のせいで……!!
視界が霞む、息をしているのに呼吸が苦しい。嫌だ、嫌だ、怖い……!!私のせいで……、誰か、ごめんなさいっ。
いよいよ、膝が笑い、立っていることもままならなくなりそうになった時。
空気が爆ぜた。
「――そう、よぉく分かったわ」
いつの間にか抜かれていた朱色に輝く直剣が、魔力を注がれ煌々と同じ朱の炎をほとばしらせている。
静かに、ただし明らかに怒りに震えたその声が、その視線が、その表情が、その背中が、私には何よりも頼もしく見えて。
「私の友達を泣かせてるのは、お前かああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
灼熱を横なぎに振るうその姿が、ここに来る前に決めた覚悟を思い出させる冷静さをくれた。
「ぬぉっ?!」
爆発的とも言えるその熱量。魔力によって発生した火炎の斬撃を突如受け、男も堪らず吹き飛ばされる。
強力無比、周囲一帯を焼き付くさんとする魔力の炎は、既に床や天井を焦がしに焦がし、一部では延焼しているありさまだ。幸いなのは、これが魔力による炎のため、酸素を消費していない、と言うことか。
普通の炎なら、今の攻撃でこの空間の酸素が全部燃え尽きているころだ。
「今の攻撃で伸びてようが、伸びてまいがよく聞きなさい。私はシャイニールビー、今からアンタを心身燃やしてでもぶっ飛ばす、魔法少女よ」
どう考えても、何も考えずにぶっ飛ばしたクセに妙にかっこよくて、笑ってしまったのは悪くない。