3組の謁見者
帝国出身。それだけで私達は警戒度を上げなければならない。彼らが真っ当であればあるほど、逆境しかないだろう国外へ。
しかも旧ミルディースの王都サンティエに赴いての商売なんてリスクしか無い。
特に身体1つで稼いでいるドゥーシマンさんのリスクは大きなものだ。
旅の大道芸人ともなれば一定の実力が無ければ成り立たない。帝国内を巡遊しているだけで、彼も生計が成り立つはずなのだ。
わざわざリスクを覚悟してこの場所に来た理由。商機だけではないと私は考えている。
「商人とは常にアンテナを張っていぶものです。我が商会は帝国内とその周辺の小国には広く販路を広べましたが、他の大国には殆ど販路を持びません。商売を成功させるには時にはリスクを覚悟ぶるものですよ」
ソース・テニトーレさんの言い分はもっともなもので、商売人としての敏腕ぶりは間違いのないものなのだろう。
老舗、とはまだ言えないというテニトーレ商会。帝国内にはライバルも多く、それらと戦う武器を求めての帝国以外の場所での活路、と受け取る。
打算と博打、双方を兼ね備えながら敢えて逆境だろうミルディースに単身乗り込んだ。
という筋書き?まだまだこの人の真意は覗けないし、これが真意なのかも知れない。
「何故、と問われても私には納得いただける答えを持ち合わせないでしょう。私は気の向くままに旅をして路銀を稼ぐ大道芸人。この地に来たのも風の向くまま気の向くまま、としか答えられません。あえて旅をする理由があるとすれば……」
ドゥーシマンさんはやはり対象的な答えで、打算と博打で勝負を仕掛けているというテニトーレさんとは真逆。
何か打算的なことは無く、たまたまここに行き着いただけとのことだ。
そこに旅の理由を付けるとしたら、一応の何かはあるらしく、彼は少し考え込んでから。
「共に芸を磨く友を探している、でしょうか?私めは生まれてこの方1人で生きて来た天涯孤独の身。人生とも言えるこの芸を更に高みへ連れて行ってくれるような存在を求めているのかも知れません」
と答えてくれた。噛み砕くと、互いの芸を磨き合うような仲間が欲しいということなのだろう。
魔法が当たり前にあるこの世界で小手先の芸を披露する大道芸とはかなりの特異な職業であり、同じような仕事をしている人は少ないのかも知れない。
自らの出自も込み込みで、彼なりの平穏を求めた旅を気長に続けている、ということなのだろう。
これが建前でなければ、だけど。
「わかりました。この街での商いを認めましょう。具体的な話はレジスタンスの指示に従ってください」
「寛大な御心に感謝いたします」
「必ずや笑顔と驚きをお届けしましょう」
とは言えこの時間だけで彼らの全てを知る事は無理だ。謁見という王族のお墨付きを貰うために予行演習もそれなりにこなしているはず。
話を聞けるのはここまでだろう。こちらもある程度のリスクを覚悟でサンティエの発展に寄与してくれることを願うばかりだ。
彼ら2人に商いの許可を出し、謁見は終了だ。静かに退室して行って彼らを見送りながら、そばに控えていたパッシオに視線を送る。
「監視は付けておくよ」
「念のためにお願い。何も無いなら、それで良いから」
あの2人には悪いけど、監視は付けさせてもらう。杞憂ならそれでいい。
こちらは帝国というだけでピリつく人ばかりなのだ。そのくらいのことはされるリスクがあると彼らも承知の上でここに来ているはずなのだから。
何もなければそれでいい。そう言い聞かせて妙に騒つく胸の中を落ち着かせる。
「真白さん!!ちょっといいですか!!」
深く深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとしていたら今度は騒がしい声の登場だ。
今日は忙しい日ねと思いながら、再び部屋にやって来た女子高生の新城 昴さんへと視線を向け。
「私をここで働かせてください!!」
とんでもないことを言い出した彼女に思わず目をパチクリとさせることになるとは、想像もしていなかった。
 




