3組の謁見者
「それで、私がこっちに来た理由の物なんですけど」
「あぁ、それなら受け取るつもりはないの。ここまで来させたのにごめんなさい」
ごそごそと鞄から噂に聞いている多数のメモリーが入った袋を取り出そうとしている昴さんを私は制した。
きょとんとする昴さんと溜め息を吐く番長。肩をすくめて困ったように笑っているパッシオと、各自の反応は様々。
「え、っと。理由を聞いても?」
「簡単よ。神様なんて信じてない」
番長さんから簡単な話は聞いていた。女神を自称する謎の女性2人組から手渡されたというメモリーの入った小袋。
彼女達はそれを私に届けて欲しいと昴さんにお願いしたようだけど、生憎私は神様の手なんて借りるつもりはサラサラ無いわ。
神様とやらがいるんだとしても、それは私達に決して味方はしないと思っている。
神は常に平等。ただの創造主であり観測者であり、あるいはただの事象。
なんて、それっぽい屁理屈を捏ねてみるけど、1番の理由は気に食わないからだ。
「何処の誰だか知らないけど、それで手を貸しているつもりならお断りよ。もし、もう一度会う機会があったらこう伝えておいて。『ナメるな』ってね」
神様だかなんだか知らないが、もし困難に直面することを予見しての行動だとしても、なら何故この場に来ない。
何故私たちに直接関与せずに、一般人を巻き込んだ。
私達のしていることはゲームではない。本気の殺し合いであり、戦争だ。
神様だというのならもっと根本的な解決に挑むべきだろう。それがなんだ、メモリーを幾らか寄越して手伝っているつもりか。
ハッキリ言ってたかだかメモリー如きでどうこうなる事態ではないし、メモリーの効果なんて私達からすればもう限界を迎えているのだ。
今の私達にとって、ここから先の強さになるのならそれこそ朱莉や千草、要ちゃんののような手段しか残っていない。
「真白、昴が運んでくれたんだ。せめて受け取るのはどうだ」
「お断りします。罠かも知れませんし」
「お前なぁ……」
罠かも知れないというのも理由と言えば理由ではある。その線は薄いと思っているけどね。
別に昴さん達を認めないと言っているのではない。彼女達の努力とその危険性、難度はもちろん評価する。
ただ、その後ろにいる得体の知れない誰かの手に乗ってやる理由はない。
「あいっかわらず頑固な奴め……」
「なんとでも言ってください。私達がそのメモリーを受け取るも受け取らないも自由なハズですから」
眉間に手を当てて顰めっ面をする番長さんを見ても私の意思は変わらない。
受け取らないったら受け取らない。そう決めていたのだから。
「嫌味なヤツでごめんなさいね。幻滅したでしょ?」
「そこまでではないですけど、何というか結構気が強いんだな、と……」
「あははは、昴さんも案外ストレートね。まぁ、魔法少女なんてこんなのばっかりってことだけは覚えておいて」
「真白は特別変わりもーー」
余計なことを言うパッシオの足を障壁で殴って静かにさせながら、お茶を口にする。
とにかく、そのメモリーを受け取るつもりも使うつもりもない。
わざわざ持って来てくれた昴さん達には悪いけど、ね。
「大将については評価してくれるんだろ?ここまで命懸けで来たんだぜ」
「勿論よ。あなた方についてはこちらで相応の報酬を用意するわ。必要であれば帝国からの身の安全についても確保します。メモリーを受け取らないのと、評価に関しては完全に別よ」
「なら文句はねぇや」
リベルタさんは見た目の通りの兄貴肌の強い性格みたいね。筋の通ってないことに対してはかなり激しく反応するタイプ。
特に昴さんについては苛烈に反応するでしょう。ああいうタイプは身内が被った理不尽は絶対に許さない。
決して嫌いじゃないわ。感情論だけど、だからこそ頼れる兄貴分ってことだしね。




