3組の謁見者
「わ、わ、もう大丈夫ですって!!」
「ははは、すまんすまん。いや、だが本当に凄いぞ。異世界に単身放り込まれて無事だったんだ」
良くやった。番長さんは昴さんが無事に帰って来たことにホッとしている以上に、彼女が自分の力で戻って来たそのことをとことん褒めていた。
実際、かなり過酷な旅だっただろう。鍛えている私達ですら大変だったのだ。
たった1人で、戦う力も持ってない彼女が無傷でここに来たことがどれだけの奇跡か。
運もさることながら、彼女の努力も相当なものだっただろう。その力は確かに誇っていい。
何かあった時、自分の力で困難を切り抜けられるというのは誰にでも出来ることではないし、経験するのも難しい。
「番長さんのおかげです。必ず迎えに来てくれるって言ってくれましたし」
「何言ってるんだ。間違いなくお前の努力の結果だ。こちらが同伴者の方か?」
「はい。リベルタさんとリリアナさん。あと、もう2人います」
番長さんが昴さんの紹介を受けて、リベルタさんとリリアナさんと挨拶を交わす。
ぶんぶんと手を握って、在らん限りの勢いで握手と感謝を伝える番長さんに2人はたじたじと言った様子だ。
よほど番長さんにとっては吉報だったんだろうね。あそこまでテンションの上がっている姿を見るのは初めてかも知れない。
それにしても他にも協力者が2人いるらしい。私としてはそちらの姿が見えないので気になるのだけど。
「ちちちっ!!」
【お初にお目に掛かります。私、研究者のピットと申します。こちらは助手のチナです】
私の足元にやって来た小さな魔物。
リスや猿を混ぜたような、でも鳥のような羽毛とクチバシもある小型の魔物だ。
人懐っこそうな鳴き声と一緒にお爺さんと思わしき声が聞こえて来る。
研究者のピット、と自己紹介したその名前に私はピンと来た。
確か、旧ミルディース王国お抱えの研究室、その室長をやっていた方がそんな名前だった。
念のために旧ミルディース王国に関わった主要な人材の名前には目を通しておいたのだけど、その成果が早速現れそうだ。
「もしかして、ピット室長さんですか?旧ミルディース王国の研究室に勤めていた」
【なんと、まさか私のことをご存知とは……】
「名前だけではありますけど。お祖父様の代から研究を続けてらしたのですよね?」
確認をすると少し震えた声で返ってくる。感極まった声に聞こえるあたり、彼の忠誠心は未だ王家に向いているようだ。
ミルディース最後の王、母のプリムラの代にも研究室長を勤めていたというミルディースの技術力を支えた第一人者にこうして会えるのはなんて幸運なことなのだろう。
「申し遅れました。私、正式な名前は真白・イニーツィア・レイナ・諸星・小野・ミルディース。旧ミルディース王国の王家の末裔です」
【……!!!!】
母にお祖母様、お祖父様の代から世話になっていただろう方に身分を偽るのは礼儀に反するだろう。
敢えて普段は名乗らない、妖精界の王族としての名前を名乗るとピットさんは息を呑み、数秒後に鼻をすする音だけが聞こえて来る。
きっと、彼にとって最も衝撃的で、これ以上ない話なのだと思う。
王家に仕えてきた人達の忠誠心というのは私の想像している以上に大きいのだというのは最近よくわかってきた。
「色々積もる話はあるかと思いますが、まずは昴さんへのご協力を感謝します」
【いえいえ、私は森に倒れていたあの子を保護しただけ。それ以外はとんと役には立っていませんから】
色々説明しなければならないこと、聞きたいこと。お互いにあるだろうけどそれはまたの機会だ。
どうやらチナちゃんという魔物の首輪から聞こえて来ている音声からするに、ピットさんだけは遠く離れた場所にいるようだ。
それにしても凄い技術だ。確か、魔法はそういった遠距離での通信に関しては科学に劣るとされていたはずだけど。
それを魔法で行っているというのなら、その技術力は健在に違いない。
「何言ってんだよ爺さん」
「そうですとも。ピット殿。ピット殿がいなければ我々はどうなっていたか」
「『思い出チェンジャー』が無かったら戦えなかったもんね!!」
うんうんと頷く3人。ピットさんはこの3人からとても慕われているのがよくわかる光景だ。
しかし『思い出チェンジャー』とは?
聞いたことのない単語に私は首を傾げる。他の面々も聞いた事がないようで、その内容を知っているのはやって来た3人とピットさん、チナさんだけのようだった。




