欲に溺れた守り人
しかしだ。このまま飛んで逃げ回っているだけではどうしようもない。リベルタの負担が大き過ぎる。いくら飛ぶことが出来る鳥人族とは言え、長い時間飛ぶことは難しいだろう。
精々30分弱が限界のハズだ。特に回避行動のような急旋回や急加速といった行為は彼の体力をむしり取って行くに違いない。
「リベルタ、あとどれくらい飛べる!!」
「2人も抱えてるからな。もって20分だ」
「その間にケリを着ける必要があるというワケか」
想像した以上に短い答えに、どうするかを必死になって考える。このままではどう足掻いても壊滅だ。解決策を模索しなくては……。
「リベルタさん、私の事降ろせば少しは長く飛べ――」
「1番追いかけまわされてんのは大将だろうが!!変身出来ねぇのにどうやって逃げるつもりだよ」
「でも現状お荷物なわけで……」
「却下に決まってんだろ!!」
当たり前だ。スバルを1番狙っているのなら、なおさらスバルを降ろすわけにはいかない。ただでさえ魔力切れでへとへとだというのに、一体何の対抗策があるというのか。
摘心的なのは結構な事だが、そこまで行けばもはや破滅願望に近い。人が良すぎるのも考え物だな。
しかし対応策が無いのは間違いない。私情を挟まない合理的な考えだけで行けば、囮も必要なくらいには危機的な状況だと考えてしまう。
その程度には打開策が何も浮かばない。そんな状況だった。
「どこに行った!!ルミナスメモリーぃっ!!」
「親玉の登場だぜ!!」
バキバキと音を立て、木々をへし折って現れた障壁の主は、私が想像していたよりもかなり小柄な少女というべき容姿をした妖精だった。
こんな魔法を操るんだ。てっきりゴリゴリの武闘派が出て来るとばかり思っていたのだが現実というのは想像を超えてくるものだ。
よく考えれば、スバルとリベルタという組み合わせでもそうだ。
ごく普通の年頃の少女と言う風貌のスバル。対してリベルタは如何にも鍛えているといった大柄な体付きをしている。
だが、2人の強さを比べるとスバルの方が上らしい。魔法とはかくも不思議なものだ。
体格差なんてあってないようなものになってしまうのだからな。
「何処だ!!隠れていないで出て来い!!」
「……スバルのことが見えてないのか?」
「もしかして、変身してねぇからじゃねぇか?確かアイツとは変身した格好でしか顔をつき合わせてねぇはずだ」
そんなバカな、とも思うが実際に気が付いていないんだからわかっていないんだろう。
まぁ、スバル達に言う変身とやらをすると見てくれはだいぶ変わる。
私からすればだいぶ奇抜は格好だが、だからこそ普通の姿は想像がつかないのかも知れんな。
顔だって隠してある。半透明だから、近付けば見えるが遠くから見たら反射して見えなさそうだ。
「だが不味いぞ。スバルが標的になっていたから里の被害は抑えられたが、そうでないのなら里を襲いかねん」
「おーい!!ファルベ−−」
「バカ!!顔丸見えで敵を挑発する奴がいるか!!戦う顔が割れてねぇから、普段は呑気で居られるんだっつーの!!」
「むがー!!」
なるほど、顔を隠すというのはそういう副次効果があるのか。
エルフみたいに極小のコミュニティだけで生活を完結させているわけではないスバル達にとって、顔という情報は常に不特定多数に晒しているもの。
かといって隠していたらそれはそれで怪しい。だが、敵に知られれば日常的に危険がある。
戦う時に顔を隠すのはそう考えると非常に合理的だ。日常生活に受ける影響を最小限に留めることが出来るのだから。
……しかし、この2人といると妙に緊張感が無いな。
敵の前だと言うのに、イマイチ緊迫感に欠ける。これで今までやって来たのだから大丈夫なんだろうが不安になってきた。




