女学生失踪事件
俺が叩きつけた手の平を中心に、前に3m、左右に1mずつくらいの範囲にヒビが広がる。
ヒビが全体と思われる場所まで広がり切ったところで、耐えきれなくなった障壁が砕け散り、魔力の残滓となって散り散りになっていった。
「これは……」
「なるほど、こんな僻地に建造物があれば今のご時世は不自然ですもんね」
声を漏らしたフェイツェイとアメティア、そして息を飲んでいる他の面々の視線の先には、地面に突然現れた金属製の扉があった。
どう見ても真新しい、ここ最近できた物だろう。そもそも魔法障壁で隠してあったという時点でほぼビンゴだ。仮に魔法庁所属以外の魔法少女達や組織が作ったにしては大仰すぎるし、なにより街からも離れすぎている。
後ろ暗いことが無ければ、人目から隠れるような場所と方法で隠れたりはしない。
「絵に描いたような入り口ね」
「特撮アニメでよく見るなぁ」
「あー、マークとか彫ってあったらホントにそのまんまっすよね」
「おっ、イケるクチ?」
「毎週弟と見てるんっすよー。面白いっすよね」
「はいはい、趣味の話で意気投合するのは後にしなさい」
呆れるくらいに悪役組織の秘密基地入り口感があるが、もとより周囲の景色に溶け込むように応用された魔法障壁で囲まれていたことを考えると、入り口が多少分かりやすくても問題はなかったのだろう。
まるで特撮アニメのそれのようにも思えるその入り口に盛り上がるアズールとクルボレレを窘めながら、俺は入り口を隠すのに使われていた魔法障壁について後で研究してみようと考えつつ、入り口の取っ手に手をかける。
「行くわよ」
入り口は、重い金属音を響かせるだけで簡単に開き、中へと俺たちに足を踏み込ませた。
中は非常に簡素だった。魔法を使っただろうこの地下空間の床から壁、天井まではむき出しの土や岩盤とは思えないほど綺麗に均し、加工がしてある。触ればつるりと手が滑るほどだ。
定期的に障壁魔法を応用した枠が組まれており、落盤防止策もちゃんと施されている。風が通ってもいるので、通気に関しても考慮された造りのようだ。
手間は省いているが、相当に考えつくされて作られていて、無駄をとことん省いた造りと言える。素人が突貫で作った物では無さそうだ。
相応の技術者が、相手にはいると考えた方が良い。
「と言うことは、組織立っていて、規模も大きい可能性があるわね……」
【鋭いな。私も報告を聞く限りそう思っていたところだ】
出来る限り音が響かないようにしながらつぶやくと、この地下に入ってからは繋ぎっぱなしとなっているウィスティーさんからも同様の声が上がる。
技術者と言うのは資金がないところには来ない。そして資金があると言うことは規模が大きいと言う事、規模が大きいと言うことは人員も多い。人員が多いと言うことは、そこに一定数の技術者がいる。
組織とはそういうものだ。どこかが瓦解すれば芋づる式に他も瓦解して全体が崩れる。
これだけの地下空間を作れるのだとしたら、あの男は相応に巨大な組織に属している可能性がある。
それも、恐らくは良からぬことを考えている反社会的組織に、だ。
でなければ、隠れる必要がない。
【床や天井に加工を施せ、地下でも長時間過ごせるような構造設計をしているのなら組織立っている上に資金もあり、技術もある。想定以上に大きな案件になりそうだな】
「幸いなのは人影やセキュリティーに関してはそこまででも無いと言うことでしょうか。」
【ふむ……、既に投棄されたのか、もしくは……】
「ストップ、どうやら来なすったぜ」
アメティアとウィスティーさんがこの地下施設について意見を交わしていると、どうやら相手も重い腰を動かしたようだ。




