欲に溺れた守り人
「これで全員か!!」
「はい!!里にいる女子供、老人は全員集めました!!」
「数名は残れ!!他の者達は私と一緒に里の防衛に回る!!」
エルフの里の中、最も大きく頑丈な父上の家に子供と女性、そして老人を詰め込んだ。
これで防衛する時に少しはやり易くなる。5名ほどの人材をここに残して守らせながら、余った人材は里の外周に向かい、そこで警戒に入っている父上達と合流する。
森の向こうではバキバキと木がへし折られる音と土煙が上がっている。
それだけでどれだけ激しい戦いが起こっているのかが分かる。
スバル達はどれだけ強大な敵と戦っているのだろうか。
森の大きな木がへし折れてしまうほどの威力の魔法が飛び交っているのは間違いないだろう。
魔法を使えないエルフ達からすれば、恐ろしいとしか思えない。スバル達の無事を祈るしか出来ないのが情けないものだ。
「父上!!」
「リリアナか。避難は終わったか?」
「無事終わりました。必要な警護を残しましたので、こちらに加わります」
里の入り口に陣取っている父上と男達は皆険しい顔をしていた。
警戒、というよりは苦しいという感情の方が強いように思う。聞こえて来る戦いの音と時折来る地響き。
経験したことないような激しい戦いに自分達が太刀打ち出来るのか、きっとこの場にいる全員が疑問に思っていた。
「どうにかなるのでしょうか?」
「我々だけでは無理だろう。アレを見てみろ」
父上の視線の先を見ると、武装を解除され、里外周の隅に一括りにされた盗賊と思われる連中の姿があった。
何故盗賊達が?この攻撃は盗賊が起こしたものではないのか?
「盗賊達ですら、より強い者によって脅され、我々の里を脅かしていたのだ。里を狙う者は私達が考えていたよりずっと強大だった」
「そんな……。ではスバル達の予想は……」
「恐らくその殆どが当たっていたのだろう。『災厄の魔女』、風の噂で聞いた程度だが国一つを滅ぼすほどの者が後ろにいるとなれば……」
エルフの里のなんてちっぽけで脆弱な一族はひとたまりもない。
スバル達はそんな敵と戦っているのか。私達の代わりに。
「父上!!今すぐスバル達のところへ!!」
「そうしたいのは、山々だが……」
「父上!!」
居ても立っても居られない。いますぐにでもスバル達のところへ向かって少しでも戦力になるべきだ。
スバル達だって戦闘のプロではない。本人達だって不安そうにしていたくらいだ。
ホントにただの通りすがりなんだ。そんな人に里をどうにかしてもらおうなんて都合が良過ぎる。
本当なら、私達エルフが自分達の力でどうにかしなきゃいけないところなのに、どうしてここで踏みとどまっているのか。
「っ!!」
「待て、リリアナ!!」
「いつまで待つのですか!!そうやっていつまで間延びさせるつもりなのですか!!」
駆け出した私の腕を父上が掴む。待てと言うが父上の待てに付き合っていたらいつまでも待たされてしまう。
そんなのないだろう。あり得ない。今ここで何とかしなくては。
「危機は目の前に迫っているのですよ!!スバル達に丸投げするつもりですか!!」
「私達が行っても邪魔になるだけだ!!」
「それで何もしないのなら、父上もそこらで棒立ちしている木偶の坊のエルフ達と何も変わらないではないですか!!それで何が出来るのです!!1歩も踏み出せない腑抜けに、エルフの未来が変えられるわけがない!!」
言うことを言って、ずっと胸の奥に閉まっていた不満をぶち撒ける。
これだけの危機を前にして、それでも踏み出せないのならもうアテにしない。
アテにするだけ無駄だ。ここからは私が私の意志で行動する。
「退いてくれー!!」
「退いて退いてー!!」
そうして森の中へ向かおうとした時、リベルタとスバルの声が聞こえて来て、木々の隙間から体勢を崩して飛び出して来たリベルタが滑るようにして落ちて来る。
「スバル!!リベルタ!!」
戻って来た2人のもとに急いで駆け寄る。何かあったのか、何より怪我をしていないかが心配だった。




