欲に溺れた守り人
「ははっ、手を出そうにも出せそうにねぇなこりゃ……」
目の前で繰り広げられてる戦いを完全に戦意喪失した盗賊たちを運びながら眺める。いや、それしか出来ねぇ。
俺のレベルじゃあの戦いに入ったら邪魔になるってことだけは確実だ。
レベルが違う。ケンカ慣れしてるのは俺の方だとばかり思っていたが、こうしてフタを開けて見りゃ、スバルの方が遥かに格上だった。
魔法の使い方がまるで違う。俺なんかが出来るのは拳に魔力を纏わせて殴るくらいだ。魔法学校を出ていない一般人なんて出来る事はそのくらいなんだよ。
いくら魔法が当たり前の妖精界だからって、戦うための魔法技術なんて普通は習わねぇ。それは将来軍に入りたいエリートが習うもんだからだ。
攻撃用の魔法は難しいんだよ。魔力の量と天性のセンス。2つの才能があって初めて使えるって言われてる。
軍人はその両方をクリアしている超エリート。片方があれば街の警護だとか、そういう危険だけど手取りの良い仕事に就ける。
攻撃魔法を手に取るように操るのはエリートの証明なのさ。残念ながら、俺にゃそのどっちもねぇ。
『兄弟』のメモリーを使って初めて魔力の量って部分だけをクリア出来る。
それでようやく一般人より多少マトモに戦えるようになった。それが普通なんだよ。天性の魔力操作のセンスなんて才能は魔力の量よりも少ねえんだ。
大抵は魔力の量はクリア出来ても魔力を操作するセンスが壊滅してんだよ。
軍人になるための魔法学校に行くためにはそのセンスがバカ高いレベルで要求される。5浪したけど学校にすら入れなかった、学校は入れたけど試験がクリアできなくて退学。
そんな話はザラに聞くんだ。それが当たり前なんだ。
「大将、アンタは……」
でもスバルは違った。魔力の無い人間が魔力を持ったからってこんなに魔法をばこばこ撃てるか普通?
どう考えても無理だろ。学者の恰好したから勉強が得意になるか?軍服着たから強くなれるか?
違うだろ?無理だろ?そんなことはあり得ねぇんだ。魔力を得たからって、そんな簡単に強くはなれねぇ。そんなにバンバン色んな種類の魔法は撃てねえんだよ。
「バケモンかよこいつら……」
抱えていた盗賊の1人が震えながらそう愚痴る。流石にバケモノとは思わねえけど、普通じゃねぇことは確かだ。
スバルとファルベガ、だったか?2人が操る魔法はどうみても一般人が操る魔法の域を超えている。軍人が見たらどうなのかは知らねぇが、少なくとも俺が間に割って入れる程度のレベルの低い戦いじゃねぇってことだけは間違いなかった。
「これで本人は平均以下を名乗ってんだから困るぜ」
スバルは時々自分をえらく過小評価する。自分はなんにも出来ない、自分なんかじゃ、そういう自己肯定感の低さがチラチラ見える時があるんだ。
普段はなんてことねぇよ。むしろやたらと元気で前しか見てねぇ元気娘だ。けど、最近は少し違く見えて来た。
なんつーか、空元気っつーか。そうでもしないとやってられねぇみたいな、虚勢を張って、周りに自分の心の奥底を悟られないようにしているっつーか。
実は自分の本心を誰にも見せない。いつものあの笑顔と元気の良さは本心を見せないための仮面なんじゃねぇのか。
そう思わせる瞬間がある。それはもしかすると本人も気が付いて無いのかも知れねぇ。いや、むしろ自分を騙すためにそうやってるんじゃねぇか。
なんてことを思わされる時があるんだよな。
スバルは間違いなく、センスとか才能ってヤツがある側だ。ただ本人はそれを頑なに認めない。
なんでそうなのかは、まだ付き合いの短い俺にゃ分かんねぇ。俺にはそこに踏み込む資格は無いだろうよ。
ただ、なんだ。
「「はああぁぁあぁぁぁっ!!!!」」
『災厄の魔女』の手先だろう女と真正面からやり合える。それだけのセンスと才能を自分で認められねぇのは勿体ねぇな、と思う。
憧れなんだか嫉妬なんだかはわからねぇが、俺が足を引っ張るようなそんな事態になる事だけは避けなきゃならん。それだけはわかった。




