欲に溺れた守り人
「ほぉら、前進なさい!!倒れた奴から武器代わりにしてあげる!!」
「ひぃぃぃっ!?!!」
スライムみたいにゲル状の障壁魔法に腰掛けながら、ブラザーメモリーに落とされて怪我をしている盗賊達を何人も障壁で持ち上げる。
そうやって次々と人を投げつけてくるファルベガに私達はどうしても攻めあぐねる。
投げ付ける勢いはかなりある。あんなので木や地面にぶつかったら怪我だけでは済まない。
3m上くらいから適当に落とされるのとは訳が違う。受け止めてあげなきゃ、盗賊は死んでしまう。
「嫌だ!!死にたくねぇ!!」
「えぇ、だから死にものぐるいで進みなさい!!止まったら同じようにしてあげる!!」
次から次へと投げ付けて、私達はその対応に付きっ切り。盗賊は悪とは言えさ、こんなやり方で大怪我とか死んじゃうのは流石に良くないよ。
悪いことをしても、許さなきゃ。ごめんなさいを言えるようにしてあげなきゃいけないんだ。
罪には罰が当然だけど、理不尽なことをしていいわけじゃない。ましてやもっと強い悪がいるなら、尚更だよね!!
「テメェ!!正々堂々戦いやがれってんだ!!」
「あら、私は正々堂々戦ってるわ。あなた達が勝手にそうしてるだけ、そうじゃなくて?」
「ふざけやがって……!!」
命を軽く扱うファルベガにブラザーは怒って声を上げるけど、お構いなしどころか笑ってるだけ。
確かに私達が勝手にしてることだ。でもそれで納得なんて出来ない。
悪いことを、道理の通ってないことにNOを突き付けて何が悪い。
「ブラザー、盗賊達を逃して」
「それはいいが、大将はどうすんだ?」
「こうする」
撃った光の弾丸が障壁に着弾すると丸ノコギリみたいに回転して障壁を切断する。
その障壁に捕らえられていた盗賊は地面に落ちかけるけど、ブラザーメモリーがギリギリキャッチ。
他にも障壁に捕まっている盗賊をそうやって逃す。驚くファルベガが私に向けて障壁を向けるけど、それはそれで地面に弾丸を撃ち込んで作った光の壁で対応。
一歩ステップして距離を取ってから大量の弾丸を1度に撃つ。
光の弾丸は光の壁を避けて、障壁にダメージを与えながらファルベガにも襲いかかる。
「おいおいおい……」
「頼むよ、ブラザーメモリー。アイツは、ファルベガは私が何とかするから」
流石に小さな光の弾丸が幾つあってもファルベガのスライム状の障壁を少し動かせば無力化されちゃう。
でもそれで十分。魔法は発想次第で幾らでも化ける。戦い方は幾らでも作れる。
素人だからって一辺倒な戦い方すると思ったら大間違いだよ。
ファルベガのやることなすことになんでこんなに心がささくれ立つのか今回のでよく分かった。
「アンタ、いつの間にそんなに……!!」
「別に何にもしてないよ。ただ、貴女のやり方が気に食わないだけ」
そう、気に食わない。私はファルベガが心の底から気に食わない。
他人を脅して誰かを襲わせるやり方も、自分のためにならどんな手段も選ぶことも、自分が上だと信じて疑わないことも。
「今から、ぶっ飛ばすから」
私は今、めちゃくちゃ怒ってる。
トリガーをひと引き。極太のレーザー光線がファルベガの姿を一気に飲み込む。
貴女はここで倒す。甘い考えで逃して良い相手じゃない。素人私じゃ足止めが精一杯とかじゃない。
今、ここで、私が貴女の野望を打ち砕く。
「ーー舐めるなぁっ!!」
今までよりも遥かに太いレーザー光線からスライム状の障壁が湧いて出て来る。
それらに守られながら飛び出して来たファルベガに照準を向け、2発。
引き金を引いて障壁に突き刺さる。意にも介さないファルベガが私の前に立ったところで炸裂。
目眩しと榴弾の両方の効果を伴った弾丸を利用して、もう一度後退。
「何度も同じ手にかかると思わないでちょうだい」
「っ!!」
しようとしたのだけど、これは読まれてた。湧き上がってきたスライム状の障壁に行く手を阻まれて足が止まる。
そこへのしかかるように障壁が波となって襲いかかって来るけど、それを銃口からレーザー状態を維持した弾丸で焼き切って強引に突破。
霧散する障壁の断面を転がるようにして飛び越えた後、銃弾を地面に撃ち込み、光の壁で無理矢理ジャンプ。
「喰らえっ!!」
一瞬で出来る限界のチャージで、弾丸の威力を高めて発射。障壁を貫くけど避けられてしまうけど、これで距離は取り直した。
「ふぅ……」
大きく息を吐いて、努めて冷静に。怒ってるけど、戦いは冷静沈着にやった方がいいに決まってるからね。




