欲に溺れた守り人
【なんだいスバル君。君らしくもない】
沈黙が続いた私達の間に入って来たのはチナちゃんとそれを通してこちらと連絡を取っているピットお爺ちゃんの声だった。
「私らしくない、ですか?」
【あぁ、君は考えるより先に身体が動くタイプだろう?無鉄砲ではないが、誰よりも活動的で誰よりも挑戦的だ。そんながむしゃらな君の姿勢が君自身の困難を突破する力になっていた、違うかい?】
ピットお爺ちゃんの言ったことを思い返しながら、確かに自分自身は頭でアレコレ考えるタイプではないよね、と納得する。
そしてそのがむしゃらさがいつもどうにかしてくれた。それは運とか人とか色んなことに恵まれた結果だけど、そのがむしゃらさが良いんだと、ピットお爺ちゃんは言ってくれた。
「確かに、スバルの実直さには毒気を抜かれたよ。自分に嘘をつかないし、周りにも嘘をつかない。こんなに真っ直ぐだと思わせてくれる人には初めて出会った」
「なんつーか、ほっとけねぇんだよな。生粋の人たらしっつーかさ」
私を置いてけぼりにして、3人はうんうんと頷いている。よく見ればチナちゃんも頷いていて、何とも言えない気分だ。
悪いことを言われてるわけじゃないのに仲間外れにされた気分だ。
「逆だよ逆。大将が俺らの中心なんだ。俺らが勝手に集まって来てるだけなんだからよ」
「私なんて出会って数日の間柄だが、スバルのことは尊敬するよ。私は君のようにはなれないからな」
【胸を張っていい。僕らのリーダーはスバル、間違いなく君なんだから】
褒められて今度は身体がくすぐったくなって来た。元気付けるために言ってくれてるんだろうけど、そんなに言われたらむず痒いし気恥ずかしい。
「ちっとは仲間のことも頼ってくれよ。やれることはしっかりやっていくからよ」
「そうだな、私達は仲間だ」
リベルタさんとリリアナさんから背中をバシッと叩かれる。2人とも力が強いから背中がヒリヒリするけど、うん。気合いが入った気がする。
悩むより先に動かないとね。よしっ、だとしたらまずは何が出来るだろう?
【それについて提案なんだがね。もし、敵の狙いがエルフの始祖『シルヴァ・ゼシター』の魂だとしたら、我々が先にその魂を確保すればいいじゃないかな?】
ピットお爺ちゃんの提案に私はポンっと手を叩く。どうして思い付かなかったんだろう。
相手にその手段があるのかも知れなかったら、私達にだって同じようにあるんだ。
「あ、確かに」
「そんなことが出来るのか?」
「うん、これが空のメモリー。これの中に魂を保管することが出来るの」
私はこのメモリーにどうやって魂が入るのかは知らないけど、リベルタさんの『兄弟』のメモリーが出来た時のことを考えるとある程度の距離とかお互いの意思とか、そういうのが関係あるのかな。
とにかく、エルフの始祖様の魂を探す必要があるんだけど、それがどこにあるかは霊感がある人くらいにしかわからないだろうし。
「問題はその魂が何処にあるかだな。探すにしても見えるもんじゃねぇし」
「多分始祖様が拒否したら入ってくれないんだよねぇ。強制的にメモリーの中に吸い込む手段があるのかもだけど……」
【模倣して作った僕からするとメモリーそのものにそういった機能はないね。彷徨った魂が入れる器に入りたがることはあるかも知れないけど、意図して魂だけで残っているような人物にはそれは通用しないだろうね】
問題が解決したと思ったら今度は別の問題が浮かんで来る。
エルフの始祖様の魂が実在するのか、実在するのだとしたらどうやってメモリーに入ってもらうか。
「うーん、始祖様に気に入ってもらうくらいしか思いつかない」
「でもよぉ、始祖様なんて言うくらいだし、わざわざ地上に留まってるような人だろ?相当偏屈なんじゃねぇか?」
「印象だけで人の先祖の性格を決めるな。とにかく、空のメモリーはそれぞれ持っておいた方がいいかもな。ちょうどチナを外して人数分余っている」
「そうだね」
残ってる空のメモリーは3枚。それを私とリベルタさん、リリアナさんで3等分して少しでもメモリーに入ってもらうチャンスを増やそう。
敵に対してはなるようになれ、かな。いざとなったら全力で逃げよう。




