女学生失踪事件
ただし、見た目は森の中にポツリと空いた空き地に過ぎない。それ以外の人工物は見当たらない。となると、結局ここはなんなんだ、という話になる。
人工的に作られたのか、自然に出来たのか。少なくともパッシオやアズールは何かを感知しているようだが、アズールは勘のためそれが何かまでは分からないようだし、肝心のパッシオは人前で大々的に喋らせられない。
使い魔という大義名分を得たのは良いのだが、枠組みは魔獣と言うことになっている。魔獣で人語を解したのは人類史上でたった一体だけだ。しかも人類に最も被害をもたらしたS級の一体。
パッシオがそれと同じように会話ができると思われると、また余計なトラブルを生み出しかねない。隠し事が多いと言うのは、こう言うところで足を引っ張る。
なら全部を話せば良いじゃないか、と思うかもしれないがリスクに対しての想定されるリターンがあまりにも無い。むしろリスクが殆どだと思う。
因みに最大のリスクはどうなるかが分からない、と言う点なのだがその辺の話は今考えることじゃないか。
「とりあえずどうするよ?ウチとパッシオはここがクサいと睨んでるけど」
「怪しいけど、見た目はただの空き地……。何かを探そうにも時間も足りないですね」
アメティアの言う通り、辺りを調査しようにももう既に指定されたタイムリミットまで40分弱と言ったところだ。時間が明らかに足りない。
ああするこうすると議論をする時間も正直勿体ない。論点があるとすれば、短くとも辺りを調べるか、一度帰還して、明日本格的に調査するくらいだ。
「あぁ、もう、こんな明らかに怪しいところまで来たのに収穫無しなんて!!」
「歯痒いな。何するにしても時間が足りない」
ヤケクソ気味にルビーが足元に転がっていた小石を蹴り上げ、フェイツェイも悔し気に表情を歪める。特に俺とフェイツェイは被害者とされているのは委員長だ。
普段から仲良くしている友人がどんな目に合っているのかも分からないまま、ここで時間が無い、と言う理由で引き下がるのは歯痒い以外の何物でもない。
とは言え、俺たちの安全も考慮した上でのギリギリのタイムリミットだ。既に東の空は星が見えているし、西の空は真っ赤な夕暮れに染まっている。
今日が満月で、夜は比較的明るいと言うくらいか。
全体的に帰還の選択をする雰囲気になり始め、そろそろ戻ろうかとなりかけた時、ルビーがもう一度不満げに小石を蹴飛ばす。
何気なくその行く末を眺めていた俺は、蹴り上げられた小石が着地して転がろうかと言うその瞬間。
「あら?」
「どうしたんですか、アリウム先輩?」
「何かいたの?アリウムお姉ちゃん」
小石が背の引く雑草の中に埋もれるその直前、急に跳ね返るようにその軌道が変わったのが目に入ったのだ。
雑草に飛んで来た小石を跳ね返すような強靭さがあるはずもない。何だろうと首をかしげていると、パッシオが何かに気が付いたように肩から飛び降り、小石が跳ね返った辺りに駆け出す。
「きゅっ!!きゅっ!!」
「……成る程、そう言うことね」
駆け出したパッシオが雑草の背丈よりも高い位置に、宙に浮くようにして立つのを見て、一体そこに何があるのか、俺も確信する。
確かに奴も似たような魔法を使っていた。これもその応用だと考えれば合点がいく。
「何か見つけたのか?」
「えぇ、どうやら本命よ」
俺が皆から離れるのを見かけたフェイツェイが寄って来て、他の皆もぞろぞろと寄って来る。
答え合わせにはちょうどいい。触った感じはさほど強力な『障壁』じゃない。カモフラージュに重きを置いたもののようだ。
野生動物や生身の人間では突破は難しいだろうけど、私は魔法少女アリウムフルール。障壁と治癒の魔法では誰にも負けるつもりは、ない!!
パシンっと見えない壁に魔力を乗せた手の平で叩くと、ガラスにヒビが入ったように何もないように見える場所が歪んだ。