欲に溺れた守り人
私達の魔力崇拝主義という考えを作られた方でもある。エルフ族の始祖、最初のエルフの1人であり、古代において『獣の王』と呼ばれる存在とその配下から世界を守った英雄の1人。
魔法という技術を広め、世界の発展の礎を築いたとまで言われるエルフ族が誇る大英雄。
その人が私達が知る言い伝えとは別に、里長にだけ伝わる話があるというのはどういうことなのか。
「私も伝え聞いているだけで詳しい事は分からん。意図してこういう状況になったのか、長い時間の中で偶発的に起きたことなのか。そもそもこれが真実なのかどうなのか。知る術がない」
「それは、そうでしょうけども……」
エルフは長命だ。そのせいか所謂書籍などといった後世に遺す方法を口伝に頼って来た。
それで十分なくらいにしか伝えることが無いとも言えるのかも知れないが、エルフはそうやって生活して来た。
そのせいで魔法技術や始祖様についての詳しい話が知ることが出来ないというのは明らかな欠点であり、そのせいで足踏みばかりさせられている状況にはうんざりして来た。
「確認しようにも、な。どの話も容赦なく切り捨ててしまえばお伽噺にすぎん。これを里の者が聞いたら怒るだろうがな」
「だから里長だけが知っている、ということなんでしょうか」
「それもあるかも知れん。エルフは頭が固いのが多いからな」
神の側近になっていてもいなくても、里に未だ魂が留まっているのだとしても、私達にそれを確認する術はなく、確認する手段が無い以上はそれは何度も言うようにお伽噺と何も変わらない。
「里に害を及ぼそうという存在はその始祖様の魂を狙っているのでしょうか?」
「さぁな。いくら魔法言えども、魂に作用する魔法なんてものがあるとはとても思えん。確か外では死体を扱う魔法は古くから固く禁じられた魔法であるし、魂も同じようなものだろう」
「冒涜と捉えるには十分ですからね……」
死者の身体を操る魔法とは聞いただけで恐ろしい。そんな魔法が存在するなら、魂をどうこうする魔法も無くはないのかも知れない。
が、父上の言う通り間違いなく外法の類。そういう魔法を作ろうとしただけで処刑されても文句は言えないだろう。
つまり仮に始祖様の魂を狙っている輩なのだとしたら、そいつらは揃いも揃ってロクでもない連中揃いというわけになる。
どういう仮定が立っても、やはり危険な相手だという事だけは鮮明になっていくな。内通者はそういった者達から何らかの見返りを受けて私腹を肥やしていると考えて良いだろう。
決定的な証拠や情報は変わらず無いままだが、動かないよりは遥かにマシな話が聞けたのは喜ばしいことだろう。
「この件、スバル達に話しても?」
「やむを得ないだろう。ただし、他言無用だという事は念を押しておいて欲しい。里の外にこの話を持ち出すのも、里の他の誰かに話すのも無しだ」
「分かりました」
相当に寛大な、平時であれば絶対にありえない対応の数々は父上だからこそしてくれていることだろう。
これが他の誰かであったら、こんなに話はとんとん拍子で進んでいない。
甘い、と言えばそうだろう。が、父上もエルフの未来を憂う言ってしまえば革新派だ。自分達が変わるキッカケになるかも知れない事件に躊躇なんてしていられないのだろう。
「任せたぞ」
「必ず、良い結果にして見せます」
父上はゆっくりと革新を進めようとしたし、性格からしてスピーディーな対応は難しいだろう。里の者達もそうだ。やはりエルフは全体的に不変を望むし、変化はかなりゆっくりだ。
その中で私はきっと異端なのだろう。私からすればスバルとリベルタと共に行動している方がずっとストレスの無かった。
私は里が好きだ。自然の中に囲まれた場所で営む生活に不満はない。だがきっと、私は近い将来……。
そこまで考えて、それは今考えることではないと思考を一度放棄する。少し先の未来の事を考えるのはこの里の危機をどうにかしてからだ。
父上に頭を下げ、退室する。
さて私も行動を起こそう。そうだな、里の中に何かヒントになる物が無いか改めて探すのが良いかも知れない。
里に留まっているという始祖様の魂が一体どこにあるのか、伝わっていないだけで何かがあるかも知れないからな。




