欲に溺れた守り人
「ピリア!!スクィー君!!」
変身を解いて駆け寄ってから声をかけるとピリアがビックリした表情で振り向く。こんなところで出会うなんて私もびっくりだ。
「ちゅちゅちゅ!!」
「スバル、貴女なんでこんなところに……!?」
「ピリアもだよ!!」
「「なんで盗賊が出る街道を1人で歩いてるの!!」」
2人揃って、一言一句全く同じ言葉を言う。タイミングまで完璧でまるで同じ口から出たみたいになっている。
そうなるなんて思ってもいなかったのはお互い様。やっぱり揃ってポカンとした後に、私は笑って、ピリアは呆れ笑いを浮かべて、お互いの事情を聴くことにした。
「コントみたいなことしないでよ、全く」
「偶然だから仕方ないって。で、ピリアはなんでこんなところに?お互い知ってるみたいだけど、危ないよ?」
「仕事よ、仕事。それに、私は別に弱くは無いもの」
確かにピリアは風貌からして旅慣れしている風に見える。腕っぷしもピリアの性格で弱いって事は無いよね。
それにしても仕事かぁ、トゥランの街にいた時も私と別れてから仕事に行ってたみたいだし、中々忙しいんだね。
あちこち旅をしながら、仕事を受けて路銀を稼いでるって感じなのかな?
「どんなお仕事なの?」
「詳しくは言えないんだけど、そうね。探し物ってところかしら」
「わざわざ盗賊の出る街道に?」
「だからこうして仕事が来るって事よ」
ふーん?つまり危ないところだからこそ、誰かに依頼してでも探して欲しいものがあるって事かな。
確かに商人の人に頼むよりは、一人身で荒事にも慣れていそうな人に頼んだ方が依頼する人は安全だし、依頼を受ける人は成功すればお金を稼げるWIN WINの関係ってわけだ。
危険があればあるほど、こういうのって報酬高いだろうしね。効率的な事が好きそうなピリアなら自分の実力に見合った内容を見極めたうえで引き受けるくらいの器用さはあるよね。
「それよりスバル、貴女はどうなのよ。自分でも言ってるけど、今ここ結構危ないわよ?」
「私も仕事みたいなものだよ。仲間もいるし、大丈夫。ピリアが思ってるほど、私だって弱くないんだから」
「どーだか。貴女って詰めが甘そうだから心配だわ。それに、仕事みたいなものってまさか危険なことをタダで引き受けていないでしょうね?」
「うっ」
それに関しては怯むしかない。思わず出た声に、ピリアははぁ~~~~と大きなため息と頭を抱えてから、少し怒った表情で私に詰め寄って来る。
「スバル、百歩譲って貴女が見かけによらずに強いって事にしておきましょう。ただし、それを安売りするのだけは見過ごせないわ」
「いや、ちょっと話の流れというか、お金が発生とかそういう話じゃ……」
「黙らっしゃい。どう考えても危険で技術や経験がなんぼの仕事でしょうよ。それをお金も取らずに善意でやるなんて色んなところで問題ありまくりだわ」
いやー、でもお金を取る取らないとか、そういう話じゃなさそうだし、自分達がエルフの里から何の謂れもなく離れるためでもあるし、完全に私が身銭を切ってる訳でも無いんだけど、ピリアの言う通り自分から率先して危険に飛び込んでいるのも事実。
正直、真っ当過ぎて言い返すことも出来ない。タダより高いものはないって言うのはタダで良いと言われた側の言葉だけど、タダでやっちゃうことで相場が崩れちゃったりとか、そういう弊害もあるよね。
まあ、あくまで仕事みたいなもの、であって仕事ではないわけだし、それはそれとしてピリアの話は勉強にもなる。
何より、相変わらずの心配性で少し安心するというか、やっぱり優しい人だなぁと思った。
「はぁ、まあ私がとやかく言っても仕方ないわね。きっとお仲間の方がしっかりしてるんだと信じておくわ」
「あー、少なくともその辺の割り切りは私よりはしっかりしてると思うよ」
リベルタさん、めちゃくちゃ情で動く人だから下手すると私より先に身体が動いちゃうけど、というのは飲み込んでおく。
少なくとも私よりはしっかりした大人だっていうのは間違いないし、変にピリアを心配させることもないよね。
「なら良いわ。私はこのまま先に進むけど、スバルも気を付けなさいよ」
「勿論。ピリアとスクィー君もね」
「ちゅちゅ!!」
さて、お互い忙しい身だし今回のところはここでお別れかな。ピリアの仕事の邪魔をするわけにもいかないしさ。
「盗賊ってどの辺にいるのかな?」
「さぁ?噂に聞いてた場所を通り過ぎたけど、私は結局出会わなかったのよね。なに?その辺りの調査?」
「うん。あ、戦ったりしないよ?流石に1人は無謀すぎるもん」
「当たり前よ。囲まれたらよっぽどバケモノみたいに強くないと勝てないわ。……ホントに気を付けなさいよ」
心配性だなぁピリアは。珍しく表情まで心配げにするピリアに大丈夫だよと言ってから、私達は別々の方向に身体を向ける。
「また会ったら遊ぼうね!!」
「はいはい。お互い怪我に気を付けてね」
「ちゅいー!!」
別れの挨拶をして、手をぶんぶんと振って私はピリアとは反対方向に駆け出す。緩い曲がり角と木々に囲まれたところまでやって来ると私は変身をして、また森の中に入って盗賊たちを探しに行った。
「……これであの子は安全ね。全く、こんなところにいるなんてね」
「ちゅいー」
「これで良いのよ。私とあの子、本当なら絶対に交わらない者同士なんだから。行くわよ、スクィー」
その逆側。スバルの姿が見えなくなったのを確認してから私は歩き出す。盗賊たちがいるのはこの先だ。スバルに言ったことは嘘。あっちに行っても何も見つけることは出来ない。
でも良いの。優しいあの子に、盗賊どもの薄汚い姿と欲を。
【『姫』】
「『変身』」
なにより自らの目的のために手段を選ばない、私の汚い姿を見られたくはないから。
メモリーを使って姿を変える。病的に白い肌に、黒を基調にした服。縮んだ等身は私のもとの姿には似ても似つかない、まるで作り込まれたお姫様のような姿。
『赤い髪』と『青灰色の瞳』を持った姿で、私は私の目的を果たすのだ。
獣どもに付き従うフリをしてでも、私は母の汚名を晴らすのだ。必ず、どんな手を使っても。
 




