欲に溺れた守り人
【スバル君、この魔物の種類が分かったよ】
「ホント?流石ピットお爺ちゃんだね」
「ちちち」
皆でこの魔物は何処から来たのかについてアレコレ話しているとチナちゃんの首輪を通じてこっちを見ていてくれたピットお爺ちゃんが魔物の種類を調べてくれたみたいだ。
博士なだけあって、こういう知識が欲しい事に関しては百人力だね。
【この魔物はグランファント。荒れた岩山に住んでいる大型の魔物の子供みたいだね】
「子供?この大きさで?」
グランファントという魔物の子供らしい。とにかくとても大きな魔物なのは間違いない。今目の前にある死骸だけで3mはあるって言うのに、それが子供だって言うんだからね。
それにしてもいよいよ分からない。この魔物は生息地から考えてもこの辺りにいる魔物じゃ絶対に無いよね。
【最大で6mを超える超大型の魔物でね。その大きさは妖精界でも指折りだ。巨体故に天敵もいなくて温厚。山岳地帯では一部の魔族と行動を共にする共存関係にあったりもするようだね】
「じゃあ誰かを積極的に襲うような子じゃないんだ?」
【手元の資料にはそう書いてあるね。危害を加えない限りは無意味に攻撃するような魔物では無さそうだね。主食も魔力を含んだ鉱物が主で、発達した牙で地面を掘るみたいだよ】
へぇー、面白い生態してるんだねぇ。本当は温厚で頭が良い魔物なんだろうなぁ。子供だし、可哀想だなとも思うけど、私の実力じゃこうするしかなかったんだ、ごめんね。
そう思いながら、死んでしまったグランファントの子供の身体を撫でる。
温厚で頭の良い、しかも全然違うところに住んでいる魔物がどうしてエルフ里がある森の周りに現れたのか。
里の周りをうろつく怪しい人達のこともあって、これはかなりキナ臭い話になって来た気がするね。
「リベルタさん、リリアナさん。この魔物が何て種類なのかわかったよ」
「マジか」
「ピット殿の協力か。助かるぞ」
2人にもその情報を伝える。ピットお爺ちゃんんことについては他のエルフの子達には今のところ内緒だ。誰が内通者か分からないしね。
そうじゃなくても、悪気なく誰かに喋ってしまう可能性もなきにしもあらずなわけで。
この子達を信用してるしてないの話じゃなくて、リスクマネジメントの話だからさ、ごめんね。
「ううむ……。グランファントか、やはり聞いたことも無い魔物だ」
「あー、どっかで聞いた気がするぜ。確かコウテン山に住んでる魔物だったと思う。あの辺は強い魔物がうようよいるけど、そんなとこで生きてるような魔物だ。そりゃ子供でも強いわな」
コウテン山脈って、確か何処からでも見えるあのおっきな山のことだよね。
あそこは険しく厳しい環境だからかとても強い魔物が多く生息しているらしい。
勿論、ここから大きく離れている。とてもじゃないけどそんなところから迷子の魔物がやって来た、とは思えないよね。
「ということはやはり……」
「誰かがわざわざ連れて来たんだろうよ。エルフの里を襲わせるためだけにな」
その目論見は私達がいることによって失敗に終わっているけど、やっぱり気になるのは相手の目的だ。
内通者の存在も要注意。下手に言いふらしたらこっちが動きにくくなっちゃう。
「わ、私たちにも詳しく説明してもらっても良いですか?」
「いや、まだ憶測に過ぎん。悪いが話すには時期尚早というやつだな」
「そうですか……」
露骨にしょんぼりするエルフの男の子が可愛い。きっとリリアナさんの役に立ちたいんだと思う。
そのまま優しい男の子になって欲しいと思うよね、こういう子を見るとさ。
「お前達にはいつも通り見回りを頼むよ。無理や無茶は厳禁。少しでも疑問に思ったことを私達に伝えるのがお前達の仕事だ」
地味だが、だからこそ大事なことだ。頼むぞ。と締め括ったリリアナさんの言葉にエルフの子達は背筋を伸ばし、返事をした。
張り切り過ぎて無茶しないと良いけどね。怪我ですめばまだ良いけど、相手が何者かもわからない以上は危険は付き物になる。
「俺らも動くか。悪いが、魔法は解禁させてもらうぜ。大したモノは使えねぇけどな」
「むしろ頼む。恐らく魔法を使えなければ太刀打ちも出来ない事も多いはずだ。念のために父上にも許可を取るが、人目に付かなければ使って貰ってもいい」
「OK。チナちゃんもよろしくね」
「ちちっ!!」
私達は魔法解禁。出し惜しみとか、そんな事言ってられないよね。




