欲に溺れた守り人
チナちゃんとピットお爺ちゃんの活躍によって、エルフの里の中に内通者がいることと、内通者を通して、里の外部の人達が『何か』を狙っていることが分かった私達。
だけど、それが誰なのか、何なのかはを知る決定的な証拠や情報は無く、ただそういう事態が進行し、多分すぐそこにまで危険が迫って来ていることも分かっただけ。
焦る気持ちばかりが積もっていくばかりの気分で、私達はやれることもないまま一夜を過ごすことになった。
「気を取り直して狩猟の仕方を、と言いたいところだが昨日の今日の出来事がある以上、色々な事情で難しい」
「だろうな」
「仕方がないので里での基本的な生活を教える。住民の顔を知っておくだけでも多少はマシになるだろう」
仕方がないよねぇ。なんかもうエルフの里に来てからアレコレあり過ぎて妥協というか半分諦めだけどさ。
何もしないわけにもいかないけど、昨日危険な魔物が出たばっかりなのに今日も狩りの練習ってわけにもいかないし。
他にも幾つか思惑はあるんだろうけど、考えないでおこうと思う。たぶんマイナスの方の感情から来るものばかりだから。
「ただまぁ、歓迎されてるとは微塵も思えねぇけどな」
「……」
エルフの里の中心街とでも言えばいいのかな。残念ながら里は言うほど大きくないから正しく言うなら家が一番集中している場所、くらいの話なんだけど。
そこでは日々採れたものや作った物なんかの物々交換が行われているらしい。小さな里だ、金銭で管理するよりは物と物で等価交換をした方が融通が利くんだろうな。
そんな場所にやって来たは良いんだけど、リベルタさんの言う通り明らかに歓迎されてなった。
別に敵対心とかそういう視線は感じない。むしろそういう視線は最初に比べると減っているんだけど、代わりに増えたのは疑いの眼差しとか、怖いものを見る時の視線だ。
露骨に関わりたくないというのが受け取れて、私は苦笑いするしかない。
「こいつらに里での暮らしについて教えたいのだが、協力してくれる者はいるか?」
「……」
「……」
リリアナさんが協力をお願いすると、その場で取って来た食材や道具を広げていた人は商品を片付けてしまい、その場にいた人達の殆どがあっという間に立ち去ってしまった。
これにはリリアナさんも肩を竦めるしかない。
「リリアナ様」
「皆、疑心暗鬼というか、私達を信用する気は無いようだな」
立ち尽くすしかない私達のところに駆け寄って来たのは若いエルフのお兄さんだ。見てくれだけだったら高校生くらいの男の子だけど、多分50年くらいは普通に生きてるんだろうな。
「決して信用してないとか、そういうわけではないと思うのです。魔物を倒してくれた恩を感じている者も間違いなくいるはずなのですが、昨日のあの話を聞いた後ですと……」
「妙に権力を持っている奴らに目を付けられるくらいなら関わらないのは当然のことさ。小さな里だ。つま弾きにされたらたまったモノではないからな」
予想範囲内というか、諦めた方が精神的に良いというか、昨日の変なエルフのおじさん達が私達を悪者にしようとしたことで、里の人達からこういう扱いになるのは何となーく予想はしてた。
ただでさえ余所者だしねー、私達。それと仲良くしているリリアナさんも里長の娘とはいえ同じ扱いというわけだ。
こうして、話しかけてくれる人がいるだけまだマシだよ。石を投げられる訳でもないしね。
人間界だとマジのつま弾き者は割とマジで石投げられますから。特に歳を取ったお爺さんお婆さんなんかはこういう傾向強い気がする。偏見なんだろうけどさ。
「俺達はリリアナ様達を信じますよ。あんなただふんぞり返ってるだけの爺達より、リリアナ様の方が里の事を考えてくれてますし」
「そう言ってくれるなら嬉しいよ。とりあえず場所を移すか。ここでは皆の迷惑になる」
駆け寄ってくれた男の子はエルフの中でも正義感が強いようだ。よく見ると私とリベルタさんを捕まえたエルフ達の中に混じっていた気がする。
「……っ」
なんとなくジッと眺めていると、私の視線に気が付いた後恥ずかし気に顔を背けられてしまった。案外初心らしい。ちょっと可愛いな。
「案外魔性だよな、大将」
「失敬な」
ただ少年の初恋を奪えるお姉さんには憧れるよね。




