エルフの里
次の日。早朝にリリアナさんに叩き起こされた私達は自分達の荷物から軽い食事を摂ってから、里の裏手にある森の入り口までやって来ていた。
「早速だが、狩りの仕方を教える」
背中に弓のような道具と矢っぽい何かを持つリリアナさんにそう言われる。
食料の確保は最優先だもんね。いつまでも携行食糧を食べてるわけにもいかないし。
食べられるものを知っておくこと自体は良いことだと思う。
エルフの里にいる間はそういう勉強をする機会だと思うしかないよね。
「こんな朝っぱらかよ……」
「時間をかけてでも行う事だからな。罠もあるから基本的には大丈夫だが、その場合は私の収入が減る。食いぶちくらいは自分で獲れ」
「ごもっともだから言い返すことも出来ねぇのがなぁ」
朝早く起こされて文句を言うリベルタさんだけど、リリアナさんのに普段をかけるわけにもね。
ここは郷に入れば郷に従えでやるしかないよ。弓の使い方なんて全く知らないから震えてるけど。
「魔法はダメか?」
「使うなとは言わんがせめて人目につくのだけは避けろ。昨日も言ったがエルフは魔力崇拝主義。魔法を使ってるところを見られたらどんな難癖を付けられるかわからん」
「かー、めんどくせぇなぁ」
朝から不満たらたらのリベルタさん。まぁ分かるよ。解決策を持ってるのに、それを使っちゃダメだと強要されたら文句も言いたくもなるよ。
私だって『光』のメモリーを使って『ルミナスメモリー』に変身すれば、魔法の弾丸で魔物を撃ってお終いだ。
それが出来ずに弓矢でどうにかしろと言われたら面倒だと思う。というか思ってる。
「不便を強いるが、ここは従ってもらうぞ」
「わぁってるよ。とりあえず使い方を教えてくれ」
「仕組み自体はシンプルだ。矢をつがえて弦を引き、離せば矢が飛ぶ」
言うだけは簡単なのはよく知ってる。何回かアーチェリーをやったことがあるけど、びっくりするくらい的に当たらない。
人間界のアーチェリーより道具の精度が低いだろうし、飛距離も短いなんだろうなぁ。
「初めての割にはサマになってるじゃないか」
「似たような道具を知っててさ。多分撃つだけなら出来るよっと」
びよよよぉーんと情けない音を立てて、矢がへろへろへろ〜と揺れながらアーチを描いて地面に落ちる。
うーん、やっぱりこうなるよね。現代日本人には魔法より難しいよコレ。
「スゲェな大将。俺はサッパリわかんねぇぞ」
「あぁ、飛ぶだけマシだ。普通ならまともに飛びもしないからな」
「それでもコレだからなぁ。リリアナさん、もうちょっと詳しく教えてもらっていい?」
もちろん、とリリアナさんに快諾してもらって、矢を撃つための姿勢とか弦の引き方とか、撃ち方とか。
何かと細やかに教えてもらうと、私の方はなんとか飛ぶようにはなって来る。
的に当たるかはまた別だけどね。的代わりにしている木の幹には掠りもしてないよ。
「俺は直接殴ったほうが早くねぇか?」
「お前はセンスが無さ過ぎだ。その方が確かに早そうだ。罠の方を後で教えてやる」
リベルタさんは弓矢で狩りは諦めることにしたみたい。まぁ、身体も大きいし、手先も器用な方でもないリベルタさんにとって、矢を撃つという技術は難しいよね。
こういう時、人間ってやっぱり手先が器用なんだなぁって思うよ。
流石は道具で世界を牛耳った種族だね。
「んー、もうちょっとどうにかしたいけどなぁ」
正直に言うと、真っ直ぐ飛ばないのは半分くらいは道具のせいじゃないかと思っている。
私から見てもなんだか不恰好な弓と矢だからね。エルフとは言え、本当なら向いてるのは手先の器用さじゃなくて魔力操作の器用さだと思うし。
元々種族的に向いてないことを無理矢理やってるんだから、効率も精度も悪いよね。
だからといって私が道具に改良なんて出来ないしさ。そういう知識なんて持ってないもん。
「魔力でなんとか誤魔化せないかな……」
私の発想は自然とそっちに向かう。魔法を大々的に使うのがNGなら、魔力で誤魔化す事は出来ないだろうか。
ズル賢い発想も人間らしいのかな。なんて思いながら、私は『光』のメモリーをそっと握った。
 




