エルフの里
「ウチの親の話はとりあえずおいといてさ。その魔力崇拝主義っていうのが今のエルフの里がこういう生活を送ってる理由なのはわかったけど、それがどうして他種族に向くの?」
「簡単さ。エルフ族の大半は融通が効かないんだ。自分達の価値観を他種族に押し付けるんだ。まぁ、それ自体はお互い様だとは思うんだが……」
あぁ、エルフ族の人達はその辺も原始的というか、野蛮というか。
殆どの人達がそこはスルーというか、上手に距離感を保ってるのにエルフ族はそれを攻撃する理由にしちゃってる訳。
異教徒は粛正してしまえ、的なそういう感じだよねきっと。
そりゃ異種族とのいざこざ起きるよ。私とリベルタさんが捕まったのも他種族だから異教徒。イコールで敵だから殺せ。
みたいな間に挟んだ方がいい過程がぜーんぶ吹っ飛んじゃってる。
「そこから発展して、一部の種族とは種族間の抗争にまでいった時代もあった。今は落ち着いているが、一時期は酷かったんだ」
「うへぇ」
「街一つとやり合ってたって話も聞いたことあるぜ。何にしたって、エルフ族は他所と揉め過ぎてんだよ」
揉めに揉めまくった結果、引っ込みが付かなくなってるのかなぁ。
時間もかかっていることを考えると、もう争ってた理由もよく分からなくなってるくらいの話かも。
たまに聞くじゃんそういうの。長い間戦争しているとそういうことも起きるんだって。
そうなると泥沼化するっていうのは今のエルフ族の状況を見ると嫌でも分かるよね。
「エルフはこのまま行けば、自滅するか他種族に滅ぼされるだろう。それくらい酷い軋轢と、他種族との文化と技術の差がある」
「魔法があるんじゃないの?」
腕を組み、目を瞑ってそう言うリリアナさん。確かに、もうエルフに味方をしてくれる種族は居なさそうだ。
身内でそういう革新的なことをしようとする人を進んで追い出してるんだろうし、自浄作用がもう無いんだ。そうなったら確かにエルフには何も無いとまで言えちゃうのかも。
でも、エルフって言うからにはやっぱり魔法って印象がある。魔法技術ですら追い付いていないのは疑問だったけど、リリアナさんの反応は首を横に振るだけ。
「魔力崇拝主義か」
「あぁ。エルフは魔法を捨てた種族だ。古来では特別優れた魔法使いを何人も輩出した名門種族だったらしいがな。数千年も魔法を使うことを止めれば、技術なんて殆どない」
言われてみれば確かに。人間界みたいに産業革命でもあれば良かったんだろうけど、妖精界にとっての産業革命はそれこそ魔法による発展だよね。
エルフはそれを自分達から捨てた。
自然のままに生きるって言えば聞こえは良いけど、見方を変えれば停滞を望んだ種族とも言える。
「私も魔力の操作だけは出来るが、魔法を使える者は全員里を抜けてるからな。具体的に魔法と言われてもわからない」
「火を付ける魔法とか、水を出す魔法は?基本でしょ?」
「いいや、エルフはそういう生活魔法、だったか?それすら禁じた。水は川から運ぶし、火は小さなサラマンダーを使って付ける」
そういう生活を1000年は続けてる種族なのさ。
リリアナさんは鼻で笑いながらそう語る。その言葉には今まで以上にエルフ族に対する暗い感情が見え隠れしていた。
「なんだ、里に嫌気が差してんならお前も抜ければ良いじゃねぇか」
「簡単に言うな。別にこの暮らし自体は嫌いじゃないんだ。ただ、古い習慣と考えを変えずにやるのが良いことなのかは疑問に思う」
同時にきっとこの里のことが好きだから、リリアナさんはこの先の未来のことを考えると憂鬱になるのかな。
「発展のない種族は淘汰される。今までエルフが生き残って来れたのは、ただ長生きで森の奥に住んでいたからに過ぎない」
この先、いつか滅びてしまうだろう自分達が嫌になるのは何となく共感できた。




