エルフの里
「だからー!!誤解ですって!!迷子になってただけなんですよー!!」
「外の連中のことなど信用できるか!! 里を荒らす野蛮人どもめ!!」
丸太に括りつけられて、石を削って作ったっぽい槍みたいな武器を5本も10本も向けられて、私達は半べそをかきながら誤解をとくために何度も話しかけるんですけど、私達の周囲を取り囲む人達は鼻息荒く興奮状態で私達に槍を突き付けるだけ。
私みたいな素人から見ても、聞く耳を持つどころか真っ当な会話にもなっていなくてどうしようもなくなってる感じ。
「だ~か~ら~!! 森の中で盗賊に追いかけまわされてたら、迷っちまっただけなんだって言ってんだろ!!」
「嘘をついても無駄だ!! 我らがエルフの神聖な森と里を汚しに来たのだろう!!」
「だぁ~!! これだからエルフってのはめんどくせぇな!!」
私、こと新城 昴とリベルタさんは旅の途中、旧王都へ向かう道中で盗賊と遭遇。
むやみやたらな戦いは避けた方がいいという判断で逃げたのはいいものの、これがとてつもなくしつこかった。
街道を真っ直ぐ進むと通行人を巻き込むうえに待ち伏せをされてる可能性もあるから、近くの森の中へ入り、何とかこの盗賊達を振り切った。
でも、今度は森から街道に戻れなくなっちゃって、森の中でやむ無く野宿。
それまでは旅をしている以上は仕方ない。あり得ない話では無いしさ。
ただ、起きたら起きたで今度は張ったテントの周りに南米の原住民みたいな格好をした人達が喚きながら取り囲んで、状況を理解する間もないうちにこの有り様。
私達は道に迷ってしまっただけだっていうのに、なんて災難だと嘆く他ないよ。
このエルフって原住民の人達からすれば、私達は間違いなく侵入者という事実だけは変わらないわけだし。
「さっさと根城の在処を吐け!!仲間共々根絶やしにしてくれる!!」
「知るかバカ!! 俺らもそいつらから逃げて来たせいでそうなってんだよ!!」
「戯言ばかりを抜かすのなら、死ねっ!!」
こちらの話を全く取り合わないエルフの方々は興奮に身を任せて、リベルタさんへ槍を振り上げる。
流石にヤバいと思ったけど、こう丸太にぐるぐる巻きにされてちゃどうしようもない。
リベルタさんに迫る槍の先端を冷や汗をかきながら見つめるしかなかった。
「何を大騒ぎしている!!」
その時、女性の怒鳴り声が辺りに響き渡って槍の動きがピタリと止まる。
今度はなんだとキョロキョロする私達に対して、エルフの人達はビシッとその場に気を付けをして直立不動になっていた。
「リリアナ様!!」
「何の騒ぎかを聞いている。何かあれば報告するように言っているはずだが?」
現れた女性は他のエルフの人達よりも随分と装飾の多い人だった。
見るからにエルフ達の中でもとっても偉い人だとわかる。
リリアナ様と呼ばれたその人は私たちではなく、私達に槍を向けていたエルフ達をじろりと睨み付けていた。
「侵入者を排除するところです!! リリアナ様の耳に入れるほどのことでは……」
「私は報告をしろと言っている。お前達に指示しているのはそれだけだ。勝手な真似をするというのなら……」
じろりという目付きから、覇気というか明らかに威嚇の意思を込めた攻撃性を感じる目と声音に変わる。
たったそれだけのことで私達に槍を向けていたエルフ達は短い悲鳴と共に縮こまったあと、地面に頭を擦り付けるレベルで平伏していまっていた。
おぉ、これが権力者の力。個人の権威がここまで話の流れを変えちゃうのを見るのは初めてなので新鮮な光景だよね。
ほら、日本でもそうそう見られるもんじゃないしさ。
「そちらの方。我が名はリリアナ。エルフの里の長の娘だ。貴方がたは何者か」
「トゥランの街から来たリベルタってもんだ。ここには盗賊に追いかけ回されているうちに辿り着いたんだ。所謂、遭難者って奴だ」
「えっと、沖縄から来ました。新城 昴です。リベルタさんと旧王都に向かう旅の途中でした」
リリアナさんは友好的、というわけでは無さそうだけどとても冷静に見える。
自己紹介と事情を軽く説明すると、ふむと考え込んでからまだ地面に頭を擦り付けているエルフの人達に私達を縛る縄を解くように指示してくれた。
「で、ですが!!」
「何でもかんでも攻撃するのはその辺の魔物と変わらん。まずは里に連れて行く。リベルタ殿、スバル殿。悪いがこちらに従ってもらう。変な動きをすれば、わかるな?」
コクコクと頷いて、リリアナさんの指示に従う。
誤解がとけさえすればこの際良いし、できれば街道まで行く方法を教えてもらいたいなと思いつつ、私とリベルタさんはエルフに囲まれて、彼女達の里へと向かった。




