帝国の策
「公国は我が国の急襲を見事退けた。これは評価されるべきであるし、実際凄まじいことであろう。同じことをされた時、我々が同じように対応出来るか?」
「……損害をゼロにすることは難しいかと」
今回の帝国の急襲の損害をゼロに抑えられたのは『極彩色の魔法少女 アメティア』の存在があったとは言え、そのアメティアがフリーで動ける状態に常になっているということ自体が公国の防衛能力の高さを示している。
『轟雷の魔法少女 クルボレレ』、『竜撃のシャドウ』。
レジスタンスでも腕利きであるマロンやガンテツ。
といった人間界妖精界の猛者が役職や立場に縛られず、自由に行動出来ていることは、そういった外部の優秀な人材に頼る必要性がほとんど無いからに他ならないのだ。
「そういう事だ。公国の防衛能力は変わらず高い水準にある。だが、それを知らない一般の民達は今回のことをどう感じると思う?」
だが、それを理解できるのは公国の中枢にいる者達だけだ。普通に暮らし、生きている。
政治や戦況について、ごく普通に生活している者達に正しく伝わるかと言えばそれはNOだ。
国民達にとって、今回の急襲は公国の防衛ラインを突破されたこと以外理解されないのだ。
何故なら民間人は政治に精通しているわけでもなく、宣戦布告されたことすらまだ知らず、前触れも無く突然帝国に首都を攻撃された。
それしかわからない。わかりようがないのだから。
「今回の攻撃で損害を与えられたかどうかが重要ではない。攻撃が可能である。それを民間人に見せつけること。それこそが今回の攻撃の本質だ」
たったそれだけのことだが、公国は自国の防衛に更に注力せざるを得なくなる。
公国に住む国民達からすれば、旧王国領にいるレジスタンスなんかを支援している場合か、となるのは当然だ。
何せ防衛力が強みの自分達の国があっさり攻撃を受けたのだ。
他国の、しかも未だ国の体制すら整え切れていない反乱軍を名乗る連中を手伝う前にやることがあるはずだ。
そういった声が主流になる。そうなれば、足並みは自然と揃わなくなるのは確定的になる。
レジスタンスに向けていた物資や人を戻して自国の補強に向けるしか無くなる。
国とはそういうものだ。領主制の政治とはいえども民意を無視することは国の存亡に関わる。
これから本格的に戦争が始まるのなら尚更国全体が足並みを揃えなくてはならない。
そういう意味で、帝王レクスの揺さぶりは非常に効果的であることは質問した兵士にもよく理解出来た。
「お前達はよくやった。今回、直接的な損害を与えられなかったのは魔法少女の戦闘能力を再び見誤った我のミスよ」
「そ、そのようなことは……」
「ふっ、王相手に意見出来るのだから変なところで日和るでないわ。お主の意見は尤もであり、正しい疑問だ。あの魔法少女は強いぞ」
王である自分のミスだと発言するレクスに、一介の兵でしかない男性は狼狽えてしまうが、レクスはそれを軽く笑い飛ばし、話を『極彩色の魔法少女 アメティア』に向ける。
『魔法使い』と人間界で呼ばれるまでに魔法に秀でた彼女は、妖精界で見てもトップレベルの魔法を縦横無尽に操る姿。
そしてその聡明さ、冷静さ。知略の深さ。
「リアンシが好みそうな女性だ」
「公国領主が?」
それを思い浮かべて、レクスは思わず笑みを浮かべ、リアンシ好みの女性像に当てはまり過ぎだろうと溢す。
「アイツはバカが嫌いだからな。嫁にするなら聡明な女一択だろう」
「はぁ……」
公国領主の女の好みなんて予想してどうするんだ。そう言いたげな兵士をよそに、レクスは月を見上げて、何かを考え込む。
物悲しくも見えるその憐憫な横顔のその心中を知る者は兵士を含め、本人以外には知る者はいなかった。
 




