帝国の策
魔力総量に物言わせて魔法を放つリアンシ。それに対応して剣を振るう帝王レクス。
流石の物量に剣一本では捌ききれないかと思いきや、これすらも凌いで見せるのは帝王レクスの実力と『繋がりを断つ力』の優秀さ故だろう。
振るだけで攻撃にも防御にもなるなんて無茶苦茶にもほどがあります。
同じ能力を持っていれば、子供だろうと老人だろうとどんな人でも適当に振っているだけで脅威と言えます。
それを最上位ではないとは言え、十分に訓練された者が振るえばその脅威度というのは更に跳ね上がるというものです。
なのでまともに訓練していないだろうリアンシでは歯が立たない、と思っていたのですが……。
「……っ!!」
「っらぁ!!」
大量の魔法で牽制した上に、逆に懐に飛び込んで行ったリアンシは取り出した短剣で逆に帝王レクスへと斬りかかる。
それを剣で受け止め、いなしたものの間合いの近さと手数の多さに勝るリアンシの猛攻は止まらない。
まさか、リアンシがここまで強かったとは驚きです。
訓練している様子は無かったのですけど……。
「相変わらず才能だけはピカイチだな。随分前に教えた基礎だけでここまでになるか」
「何もしてないと思うな。あぐらをかいていたのはどちらかを思い知らせてやるよ」
武芸に秀でた帝王レクスの手解きを過去に受けていた、とするとやはりかつて大国同士が仲の良かった頃から2人は交流があったらしい。
その交流の中で、リアンシは戦う基礎を学んでいたのかもしれませんね。
恐らくは武術を帝王レクスから、魔法を亡くなったプリムラ元女王から。
「末っ子の天才、ですか……」
ふと思い浮かんだのは朱莉ちゃんや墨亜ちゃんです。
2人とも末っ子で才気に溢れる存在。リアンシは王族三家の横の繋がりの中ではそんな立ち位置だったのでしょう。
それが過去の話だということを除けば。
「だが考えが甘いな。何故最速で最善を尽くさない。早く手をうつことがお前なら出来たはずだ」
「最速は最善じゃない。密かに刃を研いでこそ絶対的な効果が見込めるもんだよ」
「それで失うものもあるだろう」
「勇み足で失敗するよりマシだね」
2人の主張は平行線だ。これは2人の政治や行政に対する考え方の違いで、決して折り合わない部分だと思う。
帝王レクスはスピード感を大事にし、即断即決の対応を。
リアンシは結果を重視して、検証やタイミングを図り、効率と結果を最大限に引き出したい。
一長一短。お互い良いところも悪いところもある。
コレは性格や国の方針から来る違いだろうけど、それをここでわざわざやることなのか。
まるで兄弟喧嘩。戦争をしているとは思えない光景に私の困惑を深めていく。
帝王レクスは何のために最小限の人数で、わざわざ本人が乗り込んで来たのか。
リアンシは何を理由に帝王レクスに対して激しく感情を露わにし、何を思ってここに来たのか。
国を背負いながら、個人的な感情も介在していることを感じざるを得ない。
国を背負う王様達がそれで良いのかとも思うけど、近しい間柄だったことがある2人だからこそ、譲れない何かがあるのかも知れない。
ただし、2人はそれを決して周囲には話さないのだろうな、とも何となく感じます。
「大体その見てくれも気に食わん。いつまでプリムラ姉さんの真似事をしているつもりだ」
「お前がそれを語るなと言っている。姉さんの国を一方的に滅ぼすようなクソ兄貴に何を言われようともただの煩わしい雑音だ」
口喧嘩をしながらの殺し合い。親しいのか恨んでいるのか分からない。
愛憎入り混じったとでも言うんでしょうか。親しいからこそ2人の関係は拗れているんでしょうね。
「だったら少しはやる気を出せ。さもなくば、そこの娘を殺すぞ?」
そうやって2人の行く末と戦いに手を出せずにいると、突然帝王レクスから指を差される。
きょとんとするしかない私。あまりに突然過ぎて、反応も出来ずにいると。
リアンシの身体がブレ、帝王レクスの顔面に拳を振り抜いていた。
昨晩、間違えて今日分の更新を投稿した愚かな作者です




