帝国の策
「『蒼天に煌めく龍よ……!!』」
詠唱魔法の真髄は、言葉を紡ぎ、連ねることで魔法の強度に直結するイメージをより具現化することにある。
言葉と想像力、その二つを掛け合わせることで起こる相乗効果が魔法の威力を数段上に跳ね上げる。
「『恵みを与え、厄災を振りまくその力をもって』」
もちろん、言葉だけの簡単な話ではありません。詠唱を術式に変換するための技術と才能がと当たり前に高いレベルで要求されるため、ずっと難しい技術です。
早口で喋れば良いとか、そんなちゃちなものではないのです。たまに勘違いされる方がいますけどね。
「『ことごとくを打ち砕け!!』」
2つのイメージから練り上げられた魔法が、私から容赦なく魔力を吸い上げて放たれる。
「『臥龍天砕』!!」
東洋の龍を模したその魔法が、帝国兵が張った障壁や攻撃魔法を全て噛み砕きながら突き進む。
対魔法用魔法。戦術を魔法に頼る妖精界での戦いでは非常に強力な武器になること間違いなし。
さぁ、どう出ますか?帝王レクス。この程度の魔法で終わるようなスケールの小ささではないハズです。
「魔法を食う魔法か。我々とは根本的な発想が違うな」
その証拠に、帝王レクスは退避行動の準備すらせずに変わらず堂々とした佇まいを崩しません。
このくらいなら意にも介さない。そういった自信の現れ。
「だが、我が剣には脅威にもならんっ!!」
右手に握った剣を一閃。たったそれだけで龍を模った魔法は切り裂かれ、魔力の粒子となって辺りに降り注ぎます。
成る程、これは少し厄介な話になって来ましたね。
目の前で起こった出来事の一切を把握出来たからこそ、私の
額からつぅっと汗が伝います。
先程、私は帝王レクスが魔法を斬り裂いた技術をフェイツェイのそれと酷似した技術だと判断しましたが、どうにも違うようです。
フェイツェイの技術は鷹の目によって魔法を構築する術式の弱いところを見抜き、そこに寸分違い無く刃を滑らせることで魔法そのものを機能不全に陥らせる技術です。
ですが帝王レクスの剣はそんな職人技のような繊細な技術とは別物。
彼の剣は術式の強弱など関係なく、魔法という概念どころか剣を振るった範囲を強制的に両断する。
そういったものに見えました。簡単に言えば、帝王レクスの剣は硬度やエネルギー、質量などに関係なく斬ることが出来る。
まるで、世界のあらゆる繋がりを切ってしまう。そんな力。
「『繋がりの力』、ですか……!!」
それによく似た力を私は知っています。
何かと何かを繋げ、その繋がりを太くしたり細くしたり出来る特殊な力を持った妖精界の王族が私達の仲間にいるのですから……!!
「くはははっ!! そうか!! たった一度見ただけで看破するか!!」
予想を当てたことに帝王レクスはとても愉快そうに笑います。
こちらとしては笑いごとではありません。真白さんの力を考えれば、『繋がりの力』の効力は絶大。
神具と呼ばれる道具を使えば、世界の概念にすら干渉出来ると聞いています。
そんな力を持った人を相手にするのがどれだけ危険か。想像するのは簡単です。
あらゆる繋がりを強化し、守ることに特化してるのが真白さん達の一族なのだとしたら、帝王レクスの一族は繋がりを断ち、攻めることに特化している。
「揃いも揃って、反則級ですね……」
「それが王家の特権よ。騒乱の中にあった古代の妖精界を治めるためには、これくらいの力が必要だったということだ」
「それを騒乱を起こすために使ってるんじゃ、歴代のご先祖様が泣いているんじゃないですか?」
「……ふっ、そうかもな」
反則だとすら思ってしまう絶対的に上位の力。
魔法どうのこうのではどうしようもないそれを前に思わず愚痴った私に返ってきた言葉は、何故か哀愁すら感じる。
今の現状に全く納得がいっていないという風にも見えましたが、そんな雰囲気は一瞬で無くなり、再び好戦的な視線をこちらに向けて来ました。
「まぁ良い。公国に留まる魔法少女。しかも聡明と来たのならアイツの好みにピッタリだろう」
「何の話ですか?」
「こちらの都合と言うものだ。悪いが、釣り餌になってもらうぞ!!」
そうして振るわれた切っ先から放たれる斬撃を防ぐのではなく避け、距離を取って対応を考えます。
このバグみたいな力を持つ人をどう攻略しましょうか。




