女学生失踪事件
アズールが目を瞑り集中する。余計な情報を遮断することで感覚を高めているのだろうか。何にせよ彼女のシックスセンスには舌を巻く。詳しく聞けば、科学を用いたレーダー等よりも遥かに高いレベルの精度で何かを察知することもしばしばあると言う。
これももしかしたら魔力による影響なのかも知れない。きっと、アズール自身の元々の直観力が人並み以上に優れているところに、魔力によるブーストが掛かっていると考えれば、そんな話にも一応の説明がつく。
その間に俺はパッシオをクルボレレへと預ける。
「落としたりしないでね。私の大事なパートナーだから」
「勿論っす。スピードにも気を付けるんで、早過ぎたら甘噛みしてくれるっすか?」
「きゅい」
「了解だって」
一番心配なのは高速移動中にパッシオが振り落とされることだが、その辺は抱えてもらうことで対応となった。いつも速く移動するときは首に尻尾を巻き付けて身体を固定しているのだが、この場にいる魔法少女の中で最速ともなれば間違いなく振り落とされるからな。
パッシオ曰く、肩周りがむき出しで捕まるところがないからいつ振り落とされるか気が気で無いらしい。その辺りちょっと改善しないとなぁ。そう言えば自宅アパートに貰い物の白いマフラーがあったはず。あれ使えないだろうか。
「多分あっちだ」
あれこれと準備しているとアズールからの指針が示された。方角はここから北側の地域。指している方向からして、市街地の中、と言うわけでは無さそうだ。北側のはずれ、旧市街地の倉庫街か更にその先か。
「了解っす。じゃあ、行きますね」
「――キュッ?!」
アズールから方角の指示を受けて、クルボレレがパッシオを抱えて踏み込み、一気に飛び上がる。その様は弾丸だ。踏み込みから加速までの一瞬のそれですら、残像が残るばかりで視界に収めきることが出来なかった。
成る程、疾駆の魔法少女の名は伊達ではないらしい。あのスピードは色んな意味で武器になりそうだが、両親からの反対がある以上、彼女が正式活動することは難しいのだろう。
それはそれとして。
「……すごいスピードだったけど、パッシオ大丈夫かしら。気絶してないと良いんだけど」
「ちょっと悲鳴みたいなの聞こえたからな……。後で労ってやれよ」
「安全バーの無いジェットコースターみたいなものだもんね。アンタの使い魔にちょっと同情するわ」
フェイツェイとルビーに同情されるレベルで、早かった。ホント、大丈夫かアイツ……?
そんな心配をしているとアメティアからこちらも出発するとの催促をされて、追従するように俺たちも飛び出していく。飛び上がった先で俺がまた足場の魔法障壁を展開して、既に点になっているクルボレレの姿を追うのだった。
若干グロッキーになりつつあるパッシオのために度々休憩を挟みながら、俺たちはアズールの直感を信じて北の旧市街地、倉庫街となっている街の外縁へとやって来た。
「どうだ、アズール」
「うーん、この先だな」
「ここより先?この先は街の外だよ???」
ノワールの言う通り、ここから先は人の領域ではない。柵やコンクリートの壁、はたまた不要になったコンテナを積み上げられて出来た人と魔獣の棲み処の境界線のその先をアズールは示す。
それはつまり、やつらは魔獣の生息圏の中で生活しているということになる。そんなことが果たして可能なのだろうか。
「街の外での活動ですか……」
「許可は必要なのかしら?相応に危険が伴うものでしょう?」
「指示を仰ぎます。少し待ってください」
街の外の調査となると、そのリスクは一気に跳ね上がる。魔獣だらけ、と言うわけでは決してないらしいが、街の中以上に魔獣がどこからともなく現れる可能性は非常に高い。
魔法少女のその殆どが、街の外へ出るのではなく、街へとやって来た魔獣の駆除なのだ。この差は大きいものがある。
【もしもし、全員聞こえるかな?】
下手に突っ込んで、予想外の魔獣の襲撃にあい、全滅と言うのも考えられる。どうしたものかとこの作戦指示の実質の責任者である、魔法庁の監督者へとアメティアが連絡を取ると、アメティアの連絡端末から聞こえてきたのは電話越しで少しくぐもった、ハスキーな女性の声だった。