共に歩む
予想を大きく超えた高価な物をそんな簡単に出すんなんて何をかんがえているんだか。私達なら払えるでしょうけど、他の人にやったら詐欺じゃないの。
「なんでそんな高価な物をホイホイ出すのよ」
「いやまあ流石に嘘ですけど」
「ふんっ」
「いっ?!」
嘘つきの脛は蹴り飛ばしておくことにして、お茶に舌鼓を打つ。淹れてくれたお茶自体は非常に美味しい。値段が張り過ぎるものだと流石に気後れするけど、手頃なら購入を考えても良いだろう。
他にも幾つか、或いはまとめてこのお茶を仕入れるか。どちらが良いだろうか。
「因みに正しいお値段はどのくらいなのですか?」
「1袋8000ゲルってところでございます。高級品であることに変わりはございませんが、品質を考えれば高過ぎるということも無いかと」
8000ゲル。1袋の分量にもよるけど、大よそ8000円程度のお茶という事になる。人間界で考えると約8000円の茶葉と考えればかなりの高級品という事は確かに変わりない。
逆にまだそのくらいであれば、欲しい人は年に一回。あるいは数回程度買う人もいる。そのくらいの値段帯だ。
お茶自体嗜好品の類。栽培方法や世界全体の生活水準が上がっていないと需要が少ないわけだし、そうなると単価も上がる。
それらを踏まえると、妖精界では最高級の茶葉の中でも手に入りやすい値段帯の茶葉だと考えられる。
だとするなら購入も視野か。
「いたたた……。効能としては、疲労の回復とか夜眠りやすくなるとか、リラックス効果が強めかな。栄養価が高いものと一緒にとったりすると特に効果的なんて言われてるよ」
「その辺りは如何にも貴族以上向けの茶葉だね。こっちの茶葉だからカフェインとかは入ってないと思うし、真白には良いんじゃない?」
悪かったわね、カフェインジャンキーで。仕事のお供には昔っからお茶や珈琲が一般的でしょ。効能的にも合ってるんだし。
それにパッシオだって人間界にいた時から珈琲ばかり飲んでたじゃない。
人間界と繋がるようになってから、珈琲豆の伝票が混じってるのも知ってるんだからね。マンデリンとエチオピアとメキシコって一通り好みのフレーバーを揃えてるんじゃないわよ。
ジトリと視線を向けると悪戯っぽい表情で返される。そんな可愛い顔したってほだされないからね。
後で伝票持って来てあげようか?私的利用じゃないですか?ってね。
「姫様も団長もここでイチャつかないでくださいよ。幾つか買うなら見繕いますけど?そうじゃないなら私の気が休まりませんし?」
「君もふてぶてしくなったもんだね」
「女は強かに生きた方が良いってのは姫様達を見てよく分かりましたから。強い女性は憧れですよ憧れ。それに、姫様の護衛するにはこれくらいタフじゃないと」
ケラケラと笑いながら答えるグリエの調子は良いものだ。最初の方はもうちょっと肩肘を張っていたんだけど、最近じゃ職務時間以外はこうやって友人間隔の距離にいる。
有難くはあるけどね。他の人に見つかったら不敬だって言われるから気を付けて欲しいけど。
タフさを求めていることも事実だし、彼女には今後色々な無理難題を要求することもあるだろうことを考えるとこういった距離感を作っておくことは大事なのかもね。
だからといって主従の範疇を超えるようなことは許さないけど。
そこはしっかりくっきり、区切りをつけないとね。そんなことを思ってから、でもパッシオとはそれが出来てないんだから、他人の事は言えないんじゃないかという自分からのツッコミが脳裏に浮かぶ。
それはそれ、これはこれと言い訳がましい自分と、パッシオとはあくまで主従なんだと主張する自分。
感情から来る主張と、理性から来る主張が頭の中でない交ぜになって、思考がぐちゃぐちゃになっていく。
「――白。真白」
「……ぴっ?!」
「そんな驚かないでよ。お茶、どうする?幾つか見せてもらうかい?」
思考の渦に取り込まれていた私をパッシオが引きあげて来たけど、ハッと気が付いた時に顔が触れ合いそうなほど近づけているのは心臓に悪すぎるから止めてほしい。
跳び上がりそうになるのをギリギリで堪えたけど、漏れた変な声にパッシオは笑っていた。
ああ、本当にパッシオの事になるとどうしようもなく馬鹿になっている自分が恥ずかしくて仕方がない。
こんなにのめり込んでいることを、嫌でも理解させられることが一日に何回もあるんだから。
「……じゃあ、見せてもらいましょうか」
ようやく絞り出した言葉で何とかその場をごまかす。
グリエと彼女のお婆さまの表情から察するにそれが誤魔化せたのかは怪しいところだけどね。




