共に歩む
ヴィーゼの街の大通り、その歩道にあたる屋根付きの商店街のような道を私はパッシオと2人で歩いていた。
「へぇ、トゥランとは少し毛色が違うのね」
「トゥランが商業の中心都市だとしたら、ここは宿場町が元だね」
街並みを眺め、パッシオと2人でウィンドウショッピングだ。
ほぼ雑談だけど、稀にお店を覗いたりしながら気ままに歩いている。
商店街は真っ直ぐ一本道。裏通りは住民の居住区のようだった。
「どっちも交通網の要所っていうのは一緒なんだけど、商人が集まって商品のやり取りをし始めたのがトゥランの始まりなら、ヴィーゼは旅人たちが中継地として利用し始めたのが始まりなんだ」
ヴィーゼの街は私達が旧王都へと向かう旅路の中で訪れた、交易都市『トゥラン』と同じ多方面から交通網が集約した街だ。
しかし、その街並みはトゥランとヴィーゼでは大きく違う。近代の摩天楼が天を貫く最新都市がトゥランだとすれば、ヴィーゼは巨大な商店街といったところか。
人々の様子も違う。忙しなく人が行きかいしていたトゥランの人達は仕事に追われているといったオフィスマンが多い印象があった。
勿論、屋台街という古いトゥランの景色を色濃く残している部分はあったけど、私のトゥランの印象は近代化が急速に進む都市、という印象だ。
「宿場町から始まったのがあってか、観光客とかあっちこっちを移動して回る仕事をしている人達の中継基地って感じだね」
「うんうん。皆、トゥランに比べたら少しのんびりとしてるというか、もっと大らかな人が多い感じだよね。せかせかしている人はあんまりいない気がする」
通りをのんびりと歩きながら、街の簡単な歴史と雰囲気について語り合う。個人的にはヴィーゼの方が好きだ。
都会はガヤガヤしていてあまり得意でない。仕事をするなら便利だけど、住むなら田舎の方が性に合っていると思う。
私はトラックとか人の喧騒が聞こえるよりは、カエルや虫の音がうるさい方が良いんだよね。そういう意味ではヴィーゼは丁度いい街と言えた。
「なんて言うか、田舎特有の気前の良さというか、適当さというか緩さが若干感じられる気がする」
「商売もだいぶ緩くやっているからねぇ。ただ、ヴィーゼに暮らす人は街を大事にしている人が多くてね。街の形を変えたり、再開発したりなんかするよりは、街の範囲そのものを外に広げていってるんだ」
「へぇ、今でも大きくなってるんだ?」
「いや、今は昔に比べると街自体は小さくなってる。昔はもう二回りは大きな街だったんだけどね。旧王国の崩壊とか、盗賊団による襲撃が何度もあったりとかで今はすし詰め状態らしい」
歴史について話を聞いていると中々面白い話が聞ける。トゥランのように一つの箱の中で大きくなるために上に建物が伸びたのではなく、ヴィーゼは横に横にと広がっていったらしい。
それがひと昔前の話ではあるけれど、時代の変化が落ち着けば、また街は巨大化していくことになるんだろう。
東京やマンハッタンに近い、限られた土地での都市なのか、周辺にまだまだ土地が余っている欧州型の都市がヴィーゼといったところだろうか。
比べてみると違いがハッキリと出ている。住民のおおまかな性格形成もやはり違ったりするのだろうか。
その辺りの文化や風土の専門は真広の方が詳しいだろうけど、好奇心をそそられる話はいつ聞いても面白い。
それをよく知っているパッシオはいつも通り良いエスコート役だった。
「って事はエースさんは大変ね」
「せめて盗賊団の騒ぎが収まればとは言っているね。僕らもどうにかしたいとは思っているんだけど、中々小癪な連中でね。散発的に仕掛けて来る厄介さがあるんだ。最近は朱莉に痛い目に遭わされたらしくて、襲撃に来ていないらしいけどね」
「いつだって暴力から人を守るのは武力ね……。」
悲しいものだ。縄張りや生存圏を争う生き物のサガとも言えるけど、知性ある生き物であるなら、そういうのは少ない方がいいと常々思う。
それが出来れば苦労しないというのは、身に染みてわかっているんだけどね。
ぼうっと考えごとをしながら歩いているとグイッと腕を引かれて、パッシオの腕の中へと入れられる。
その横を歩道を走り回る少年達が駆け抜けて行って、楽しそうな声をあげていた。
「前を見て歩かないと危ないよ?君は考えごとに夢中になるとすぐに周りが見えなくなるんだから」
「ごめんごめん。ありがとね。子供達にぶつからなくて良かった」
トゥラン程の人通りは無いとはいえ、それでも人は多い。
ぼけっとしていると人や物にぶつかるのは当然だ。パッシオの注意を素直に受け、改めて街並みを眺めながら歩く。
「歩道を走り回るんじゃない!!危ないだろうが!!」
「やべ?!」
「カミナリジジイだ!!」
「そこに直れ!!なんで走り回っちゃならんのか骨の髄まで叩き込んでやる!!」
後ろでは歩道を駆け回っていた少年達が、店先にいたお爺さん店主に怒鳴られていた。
あわてて逃げようとする子供達を店主は手際の良い魔法で捕まえている。
少し荒っぽいけど、理不尽なお爺さんでは無さそうなのでそのままにしておこう。
「懐かしいなぁ。僕も昔はあのお爺さんに道すがらお尻を履き物で叩かれたもんだよ」
「何したのよ。理由が無きゃ怒るような人では無さそうだけど?」
「いやー、昔のヤンチャというかね。今じゃ恥ずかしくて言えないよ」
誤魔化すように笑いながら歩くパッシオには呆れる。
相当ヤンチャしてたのね。多分、私が想像しているよりもずっと酷いレベルで。
ま、今が落ち着いてるのなら不問にしときましょ。




