共に歩む
「別に今すぐそういった関係にならなければいけないわけではありませんよ?」
「でも、積極的に行けってことはそうなれってことじゃないの?」
「あの堅物を堕とすには今からアピールしろってことよ。分かるでしょ?アイツ、普通にやったら絶対首を縦に振らないわよ」
ガツガツ行け。みたいな話だったから今すぐ付き合うか付き合わないか、そうじゃないなら諦めろ、的な話だとばかり思っていた。
パッシオが普通にやっても首を縦に振らないというのは完全に同意する。私が行動を渋っているのはその結末が分かっているからだし、それがパッシオにとって迷惑だというのならやらない方がいいのかなとも思う。
「だからしっかり今からアプローチをするんですよ。OKしてもらうのではありません。あっちが言ってくるまで攻め続けるのです」
「ううう……、でもさぁ」
「弱気になるんじゃないわよ。絶対に勝てる試合を更に有利に進めるための布石なんて、アンタの常とう手段でしょうが」
それは確かにそうだけど、畑が違い過ぎるって。私には無理だよぉ。もうお終いだぁ……。
へなへなと机に崩れ落ちる私とそれを見て呆れたようにため息を吐く二人の気配がする。無理なんだよぉ。どうやれば良いかさっぱりわからないもん。戦ってた方が楽だよこんなの。
「恋愛は戦いですよ。何もしなかったらホントに盗りに行きますよ?」
「ひょえ……」
「……こわぁ」
美弥子さんからの圧が凄い。恋は戦い、とはどこかで聞いたことはあるけれど、世の女の子は本当にこんなことを日常的に行っているのだろうか。
だとしたら私なんかより戦いに慣れていると思う。もう私に勝ち目はないかもしれない……。
少なくとも美弥子さんは私なんかよりは恋の戦いには慣れている。百戦錬磨とは言わないかもだけど、よちよち歩きの私よりは遥かに格上。
そんな人と戦いを挑まれたらもう最初から白旗だ。だって敵わないから。
「だーかーらー。なんで勝てる試合を放棄すんのよ。アンタは不戦勝してるも同然なの。それをアンタが棄権してどうすんのよ」
「だってぇ……」
「はぁ~~~~。なんで自分の事となるとこんなに自信が無いのよ。いつもは何されたって超強気のクセに」
それはだから勝てる打算があるからであって、戦い方も分からない恋愛では無理だって。
首を振る私とため息を吐く2人。もう何度目かも分からない状況は何の進展もないまま、ただただ私がひたすら情けないサマを披露するだけで終わるのだった。
「……どういう状況?」
そんなカオスな状況の中、パッシオが戻って来る。彼からしたら、この状況は意味不明の一言に尽きるだろう。
私がこんなザマを晒しているのなんて、パッシオからしても見たことが無いかも。無様な姿を晒すのは少し嫌だけど、起き上がる気力もない。会議が始まるまでこのままでいよう。
「半分くらいはアンタが原因よ」
「え、僕?」
「不可抗力でもあるんだろうけどね。殆どは真白が情けないだけだから」
「真白が?」
パッシオのせいと言われて本人は首を傾げるけど、実際は殆ど私のせいだから朱莉の説明は不適切だ。
情けない私の実態に、パッシオが少し驚いているような気もするけど、ホントに起き上がる気力もないから机に突っ伏したままでいる。
そんな私の隣に座る気配がした後、ぽんっと頭の上に手が置かれる。
「何か嫌なことでもあった?もし調子が悪いなら、今日は休みにしよう」
パッシオに対して一歩踏み出す勇気が出ないまま、ただぐずぐずとしている私にパッシオはいつも通り優しい言葉をかけてくれる。
それを聞いて、私の体温がぐーっと上がる気配がする。突っ伏して見えてない顔が真っ赤になっている気配しかない。
今顔を上げたら今度は恥ずかしさで死ぬ。
「そうやって甘やかすから話がこじれるんですからね」
「なんの話?」
「さぁね。パッシオも自分の胸にしっかり聞くべきだから、私達からは何も言わないわ」
「???」
私の頭を自然と優しく撫でてくれているパッシオに2人がまた半分呆れたような声音でパッシオに禅問答のようなことを言い、それに首を傾げるパッシオ。
私は変わらず、真っ赤になっているだろう顔を隠すのに必死だった。




