女学生失踪事件
俺の睨み付けるような視線に、クルボレレは臆することなく真正面から向かい合う。
お互い立場は野良だ。何があっても責任はすべて自分に降りかかって来る俺たちだからこその問いかけ。
「私はアリウム先輩に助けてもらいました。だから恩返しをしたいとか、そういうのも正直あります」
今までの砕けた雰囲気はなりを潜めて、彼女は真摯に答えて見せる。
「ただ、それ以上に私は魔法少女です。野良とか政府所属とか、そんなことよりも前に他の人には無い力があります。それを誰かを助けるために使えるなら、私は両親の反対を押し切ったって使ってほしいです」
何とも親泣かせな発言だ。彼女の身の安全を優先するために莫大な報酬を蹴ったというのに、彼女はそんな報酬や両親の想いよりも自分の考えと、誰かのために魔法少女の力を使いたいと豪語するのだから。
全く、困った子だ。
「自惚れないで、貴女が最適、と言うだけで貴女の代わりはここにいる全員が務められるわ。貴女、折角ご両親が貴女を守るために選んだ決断を無為にする気?」
「ちょ、ちょっとアリウム――」
「ルビーは黙ってなさい」
口を挟もうとしたルビーにピシャリと言葉で言い包めて、俺はクルボレレを睨み続ける。
本人は冷や汗をたらりとかいているが、引く様子はない。ビシリと背筋を伸ばして、俺の言葉に耳を傾けている。
「パパとママには後で謝ります。多分めちゃくちゃ怒られると思います。でも、それを理由にして出来ることから逃げたくないっす」
「怖いとは思わないの?」
「怖いっす。戦いになったらどうしようとか正直めっちゃ思ってます。怪我したら痛いんだろうなとか、ビビりまくってます」
怖くはないのかと問われて、クルボレレは目を一瞬伏せる。そりゃそうだ、誰だって怖いに決まってる。ここにいる魔法少女が、魔獣と平然と戦えるのは血の滲む様な修練と、何度となく魔獣と戦った経験による自信があるからだ。
それがまだ無い彼女は怖いに決まっている。例え、今回は魔獣との戦闘を想定してないとしてもだ。
「でも、私は疾駆の魔法少女クルボレレっす!!私は、自分が魔法少女ってことから逃げないって決めたっす!!だから、使ってください!!お願いします!!」
お腹からめいっぱいの声を出して、クルボレレはそう主張して見せる。その言葉を聞いて、俺も肩を竦めて認めるしかない、彼女は相応の覚悟を持ってここに来ている。それを無下にするのは先輩と慕ってくれている彼女に失礼だろう。
「使う、なんてそんな奴隷みたいなことしないわよ。貴女はこの作戦を共に遂行する仲間。一緒にやるの、自分を下げるのは止めときなさい」
「じゃ、じゃあ……!!」
「ただし!!」
目をキラキラさせて俺の方を向く彼女を片手で制しながら、俺はさらに言葉を続ける。仲間は仲間だが、特別な条件付きだ。戦闘には絶対に参加させることは出来ない。戦闘訓練も何も積んでない彼女が参加したところで何が出来る訳でも無い。
ハッキリ言って邪魔なだけだ。
「戦闘が始まると思った瞬間に全速力で逃げなさい。後ろは絶対に振り向かないこと、私たちのことより、自分のことを最優先にしなさい。それが出来ないなら、私はあなたの参加を断固として認めません」
「……それが約束っすもんね。了解しました」
戦闘が始まる兆候が見えた瞬間。その段階で脱兎のごとくその場から離脱すること。これが絶対条件だ。それを破るようなら、今回も今後も俺は彼女を何らかの作戦に呼ぶことを断固として反対することにする。
そう言われたクルボレレは深く頷いて、了解の意を示した。素直な子だからこれで大丈夫だろう。釘刺しはこのくらいにしておかないとな。
「ごめんなさい。話が長くなっちゃったわ」
「問題ありません。必要なことだと思いますから。……これより『女学生失踪事件』の調査、捜索、奪還の作戦行動を開始します」
さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。なんにせよ、奴らの尻尾を掴んで、委員長を助け出さないとな。