共に歩む
「さっきも言ったけど、魔力って言うのは精神力、心の状態に強く作用するじゃない?」
「そうね。まだ詳しい因果関係は解明されてないけど、体験談として確実に事実よね」
魔力の強さは精神面の状態。まぁ、心が正常か否かでだいぶ変わって来る。
ポイントは魔力の強さ、という点だ。決して魔力の総量が精神面で上下するわけではなく、同じ量の魔力でも精神が落ち込んでいる時と、興奮状態で盛り上がっている時とでは強度が違うのだ。
この詳しい理屈は分かっていないものの、恐らくは魔力自体が魂から発せられる精神エネルギーであることに理由があると思われている。
とにかく、魔法と魔力は気分が落ち込んでいると弱くなり、強気でいたり興奮状態だと強くなる傾向が非常に強い。
負けそうと思って魔法を使えば魔法の威力は下がるし、絶対に勝つという気持ちは魔法を強くする。
簡単に言えばそういう現象だ。
これに関しては私達が1番実感することで、ここ1番の火力を出せるのはそういう場面でのメンタルの強さが露骨に出ることになる。
「朱莉は特別そこは強いわよね」
「負けん気が強い方が有利って印象はあるわね」
私達の中でも特段に気が強い朱莉はそういった場面に強く。今まで何度も格上の敵をそれで退けて来た。
覚悟や気迫でも魔法は強くなる。パッシオ曰く、人間は魔法のその部分を引き出すのが上手いらしい。
想像力が豊かだったり、感受性が種族単位で優れているのかもね。
「で、恋愛っていうのはいわば絶対のパートナーを作るって事でしょ?」
「まぁ、戦場のパートナーよりは日頃から一緒にいるわけだし」
「祝福もされるし、お墓だって同じのに入るわ。家族にだってなれるしね。そういう守りたい人、一緒にいたい人がいるっていうのは精神的に補強になると思わない?」
確かに。よくスポーツ選手とか芸能人とか、何かと忙しく、精神面でも苦労する立場の人なんかは結婚したことでやる気とか、大変な時期も乗り越えられた。
そんな話をテレビなんかでやっていることがあるよね。
精神的支柱になってくれる誰か、というのがとても大切なことは確かによくわか――。
「なに赤くなってんのよ」
「いや、ホントにその、気が付いて無かっただけなんだなって……」
それって私にとってはパッシオの事だよなぁ、と思い至ってそこで顔が熱くなる。
じとりとした目を向けて来る朱莉から目を逸らしながら、朱莉や美弥子さん達が指摘するように本当に私はそういう気持ちに気が付かずに、関係の進展をすっ飛ばしてその領域まで行ってしまった事が妙に恥ずかしい。
いつからだったんだろう。私にとってパッシオが特別な存在になったのは。
間違いなく、3年前のパッシオから出会って1年間の中である事は間違いない。
ただ、それがいつからとかではなくて、自然と、当たり前にいてくれる存在になっていたのが大きいと思う。
ずっと一人を選んでいた。一人だと思い込んでいた私に明確に手を差し伸べてくれたパッシオはもしかすると最初から特別だったのかも知れない。
でも、そうだとすると出会った当初は男性だった私は、やっぱり半端な存在だという事に気が付く。
「今度は急に泣きそうになるんじゃないわよ。ちょっと落ち着きなさいよ」
「だ、大丈夫だよ。なんでもないから」
今じゃ記憶も記録も、私が男性だった頃のモノは全くと言っていいほど残っていない。パッシオだけがその事実を覚えている。
それを私は信じている、って状態。私達からすればソースはパッシオ一人だけで信憑性なんて無いように思うけど、パッシオが無意味な嘘をつくとは思わないし、本当のことを言っているんだというのは3年前のことで身に染みて分かっている。
パッシオだけが覚えている私が男性だった事実は、パッシオにとって気味が悪いことではないだろうか。
パッシオは女の子が大好きだ。今はその影はないけど、根っこは変わっていないハズ。今だってちやほやされたら内心嬉しいはず。なんかムカついて来たな。
……でも、私が男性だったことを覚えているパッシオからしたら私はもしかして気持ち悪い存在なのかもしれない。
「怒ってるのか泣きそうなのかハッキリしなさい」
「でもさぁ」
パッシオのことを考えるともうダメだ。情緒不安定も良いところで、私らしくない。
朱莉にも心配されて、だめだめだぁ。どうすれば良いんだろう。




