共に歩む
「それにしてもやるなぁパッシオ」
「なんの話だい?」
街の警備隊の隊員からの相談というのは先日人間界から供与された自動障壁魔法展開システムについてだった。
基本的なことは教えたけど、応用やら具体的な仕組みやら何やら。一通り彼らの質問に答えた後、真白達のもとへ戻る道中にエースからの突然のフリに検討もつかない僕は素直に何の話かを聞き返した。
「なんの話って、そりゃお前、よくお姫様を射止めたな。噂には聞いてたけど、本当だとは思わなかったぞ」
「……だから、何の話だい?」
「おいおい、とぼけてもしょうがないだろ?お姫様、真白さんのことさ。随分と仲睦まじくて、見てるこっちがヤケドしそうだ」
エースからそう言われて、僕は訝しむ。彼は何の話をしているのか。もし、真白と僕が男女の仲だと思っているのなら、それは酷く思い違いだ。
真白とは昔と変わらず、相棒という仲だ。それ以上でもそれ以下でもない。僕らの関係は不変だ。勝手な邪推は彼女に失礼と言うものだ。
「勘違いしているところ悪いけど、僕と真白はそういう仲じゃないよ」
「はぁ?!あの距離感と雰囲気で恋人同士じゃないとか嘘だろ?!」
その事実を伝えるとエースは目を剥く勢いで驚く。そんな反応をしなくても良いじゃないか。
僕らはいたって健全な関係だ。信頼関係から成り立っている僕らの関係に周囲からどうこう言われても、ねぇ?
「いやいやいや!!どう見ても恋人同士のそれだっただろ?!女ったらしのパッシオーネが身を固めたさせた女性がいるって、レジスタンス結成当時から噂だったんだぞ?!」
「止めてくれよその変な二つ名みたいなの」
「それに関しては過去のお前が悪い」
それを言われると弱い。
昔も昔の話。まだ真白達とも出会っていないどころか、王国は健在で僕の部下の1人であるサフィーリアの姉、テレネッツァ・ノブル・アグアマリナとも許嫁の関係に無かった頃の話だ。
何十年前になる当時の僕の女性遍歴というのは、まぁ酷いモノだったよ。
毎日女性をとっかえひっかえ。その気にさせておきながら手は出さない。そのくせその気にだけはさせて来る。
正直に言ってかなりのクズ男と言っても差し支えは無かったんじゃないかな。
手は出さないだけマシだったのかも知れないけど、振り回された女性たちからすればたまったモノじゃない。
その悪名は一部の間であれよあれよと広まって、付いたあだ名が『女ったらしのパッシオーネ』。
今考えれば黒歴史だ。消せるものなら消したいものだけど、やったことはもう仕方がないと開き直るしかない。
今でも、その節で迷惑をかけた人からの一部からは渋い顔をされることがある。
そんな僕の女癖の悪さを見兼ね、当時から騎士団の総団長であった厳格な父が貴族令嬢の中でもひと際武闘派のテレネッツァを許嫁にして、僕のコントロールを試みた。
それから何かをやらかす度に僕はテレネッツァにぼこぼこにされたわけだ。
テレネッツァと僕では、僕の方が当時から強かったんだけど、ポリシーってヤツでね。
女性に手をあげることは犯罪者を相手にする時以外はNGと決めていた。
おかげで一時期はホントに毎日ぼこぼこにされてたね。
その間にもテレネッツァを口説いたりしてたんだから、我ながらしょうもない。
それでもまぁ、彼女の顔を立てるためもあって、僕はある程度の節度ってヤツを覚えた訳だ。
それでも付いた悪名はそうそう消えるものじゃないけどね。
「あのお前が帰って来たと思ったら、かつての女癖の悪さが影を潜めて、仲間を集めてかつての親父さんさながらにレジスタンをまとめ上げて、あっという間に王国領内に蔓延っていた帝国軍を押し返した!!」
それは事実だね。真白達と別れた僕はカレジを伴って、旧王国領を中心に散り散りになった仲間達や、息を潜めて帝国と敵対すべく力を蓄えていた幾つかのグループをまとめ上げた。
そうやって出来たのがレジスタンスという組織だ。
皆の協力のおかげで、僕らは故郷の土地を取り返すことが出来た。
「お前をそこまで更生させた姫君に!! 君は故郷を取り返す使命を命じられて戻って来たのだと言われてたんだぞ!! どう考えてもお姫様と騎士の王道ストーリーだろ!?」
「そこからが誤解というか、噂混じりなんだよねぇ」
僕を更生させたのは、僕の主人である真白で間違いない。
彼女の顔に泥を塗る真似だけは僕自身であろうと許さない。
真白の騎士として、恥ずかしくない言動を。
人間界での諸星家での生活も、僕を更生させるのに役立ったと言える。
特に光さんと美弥子さんから受けた影ながらの指導にはそれはそれはお世話になった。
真実はそこまで、そこから先は真実から滲み出た噂話が尾鰭羽鰭を付けて一人歩きした結果だ。
「僕と真白は相棒で、主人と騎士。それ以上でもそれ以下でも無いよ」
これが真実。真白のためにもそれだけは伝えておかないとね。




