女学生失踪事件
簡単にまとめると、アメティアが立案した作戦はこうだ。
まず、アズールに大まかな方角を指し示してもらい、それを下にパッシオを抱えたクルボレレが移動を開始する。それに追従するように俺たちも移動して、アズールの進路変更、あるいはパッシオの魔力探知にかかるまで、それを繰り返す。と言うものだ。
まぁ、多少はアテのあるローラー作戦だ。端から順繰りと進めていくのではなく、向かう方向だけは、アズールの直感ではあるが指示があるので、精神的にも楽だし、時間的な節約の可能性がある。と言ったところだろう。
元より、連中の潜伏先の一つも分からない状態なのだ。全くアテの無い時間と労力のかかるローラーをするか、一応のアテがある中で可能なことをするかを問われれば、後者の方が確かに良いと思える。少々不安が残るのも確かなのだけど。
「どのみち、私たちには情報がありません。悔しいですが、被害の報告だけが上がっているのが現状です。その中で最善を尽くすのであれば、この作戦だと判断しました。作戦とも言えないものかもしれませんけれど」
「こっちとしては何の文句も無いわよ。元々私はしばらく現場にいなかったし」
「私としてはクルボレレの選出が気になるわね。彼女、前にあった時はとてもじゃないけど足は速いとは思えなかったのだけど?」
アメティアの作戦に長らく療養していたルビーは文句はない。もしかしたら今日が復帰一日目なのかな。
情報こそはもらっていたかもだけれど、現場の雰囲気や具体的な情報を知りえてないなら、文句をそもそも言える立場でも無いか。
それとは別に俺は俺で気になることを質問する。もちろんクルボレレについてだ。以前、彼女を救出した時は、残念ながら彼女はお世辞にも足が速いとは言えなかった。
つたない動きで何とか逃げている様子だった彼女に、移動の足としての役割が果たせるのだろうか。
「それについては何の問題もありません。クルボレレちゃんには、以前保護した際に自己防衛のための簡単な訓練を受けていただきまして。そこで魔力を用いた状態での体の動かし方を熟知してもらうのと、彼女の魔法少女としての適性がどこに向いてるのかをチェックしました」
「それが移動手段として選ばれた理由?」
「ハイ、殊更足の速さに関しては類稀とも言えるほどの才気です。ランクこそCですが、本気の移動速度は私たちでも目に追えないほどでした」
「それは、凄いわね……」
魔法少女の魔力で強化された動体視力でも追えないほどのスピードとは。下手をすると音速が出てるのではないだろうか。成る程、それほどのスピードを出せるのなら、パッシオを伴った移動の足としても十分すぎるほどだし、時間の短縮も図れる。
戦闘になった場合は全速力で逃げてもらえれば、安全性はお墨付き。成る程成る程、考えれば考えるだけ適任と言うわけだ。流石アメティア、作戦の人員選出は適格だ。
「両親からは反対されてしまって、政府所属にはなれなかったんですけど。今回は戦闘には絶対に参加しないことを条件に直談判しました!!」
「……そう、でも良いの?危険よ?それこそ命の。ご両親はそこを心配して、貴女の政府所属を反対したんだと思うのだけど」
この子の両親は、クルボレレから得られる報酬よりもこの子の命の安全を優先したということだ。この様子だと、クルボレレ自身は政府所属を強く願ったのだろうけど、猛反対を食らって渋々折れた、と言うことだろう。
もしくは両親に懇願されて、上げかけた手を降ろしたのかも知れない。何はともあれ、彼女は身の危険を承知でここに来ている筈だ。それでもどんなに約束とは言え危険は伴う。相手は正体不明と言っても過言ではない。魔獣よりも危険な可能性は十分ある。
それを、分かってここに立っているのだろうか。