星の巫女
「そんなことないんじゃないの?だってまだ何も伝えてないんだし」
ピケの性格なら、当たって砕けて再挑戦くらいの胆力は持ち合わせていると思っていた。
それが実際には勝負に出ることすらなく、退くというのだから驚きだ。
「私もさー。最初ここにスタンとスミアが来たときは上辺だけの奴にスタンを渡さないって意気込んでたんだけどさぁ」
これは絶対に勝てないなぁって思い知らされるだけだったよね。と、ピケはぼやきながら私達の出立準備の手を動かし続ける。
完全に諦めムード。白旗を揚げている状態でやはりらしくないなと思う。出会って数日の私が偉そうに言うなという話ではあるけど、そのくらい普段の印象とは真逆な対応をしていた。
「なんでそう思うの?別にピケが間に入る予知なんていくらでも出来ると思うけど……」
「いやだってさ、スタンってば絶対スミアに惚れてるじゃん」
「え」
持っていた荷物を思わず取りこぼしそうになって、ギリギリでキャッチする。別に割れ物でもないけど、落とすのはなんか嫌だし。
ってそうじゃなくて、スタンが私に、なんだって?
「だから、スタンがスミア惚れてるって話」
「え、なんで?」
「なんでって、むしろアンタあれだけアピールされてるのに何にも思わないの?」
アピール、え、何処で?全く心当たりがなくて、キョトンとする私にピケは呆れたようにため息を吐いている。
そんな、この唐変木みたいな反応しなくても。
「よくわかったわね。そのクセにスタンのことには全く気付いてないの、アイツが可哀想になるわ」
「え、え」
「もっかい言ってあげる。アイツ、スミアに惚れてるわよ」
今度こそ持っていた物を落とす。いやいやいやいやいやいや。
え、だってそんな素振りしてなくない?いつも通りじゃん。そんなこと急に教えられても困るというか、どうすればいいの?
「アンタには常に特段優しいってだけよ。スタンはいつでも誰にも優しいけど、スミアに対してはもう対応が別格よ?」
「それは私の機嫌を損ねたらビジネスパートナーとしての信頼度的なヤツじゃ……」
「ビジネスパートナーならむしろもっと素っ気ないでしょうよ。必要なやり取りだけしてれば良いんだから。幼馴染が女の子を特別扱いしてる様子を目の前で見せつけられたら、そりゃ諦めもつくわ」
そんなつもりは毛頭なかったと弁明したい。
優しくされてた?いつ、何処で?と頭を巡らせると、そう言えばスタンは時折私の手を引いて車道側を必ず歩くようにしてた気がする。
人混みに入らなきゃいけない時は手を握って、自分の身体で私が他の人とぶつからないようにしていた気がする。
ある程度歩いたら、休憩したり飲み物を持って来たりしてくれる。
私の好きそうな物があったら教えてくれる。
異世界で生活する私が一番心地が良く過ごせるように、何かと配慮してくれる。
それが特別扱い?
「戻ったよー」
「うひゃぁぁっ?!」
「うおっ?!なに?!どうしたの?!」
ぐるぐると頭の中を巡る何となく思い当たる節が見つかるたびに、え?え?ともしかしてあれもこれも特別良くしてくれた。
少なからず、そういう気持ちから来ているものなのかと思い始めた時、スタンが魔車の受け取りから帰って来て、思わず飛び上がる。
あまりにもタイミングの悪い帰宅に、スタンを驚かせてしまったけど、首をぶんぶんと振って否定することで、とりあえずやり過ごした。
「何か調子でも悪いのかい?顔が赤い気がするけど……」
私の体調を気遣って、顔を覗き込んで来るスタンから目を逸らしながら誤魔化していると、今度は未来視の力が発動して、一つの未来が脳裏に浮かぶ。
【熱でもあるのかな?ちょっとごめんよ】
そう言いながら、顔を近付け、おでことおでこをくっ付ける。
そんな風景で、私の視界にはスタンの整った顔がかつて無いほど至近距離まで迫っている。
そんな未来を見て−−。
「は、破廉恥!!」
「何の話っ?!」
「あははは、おもしろ〜」
適当に掴んだタオルで顔をガードしながら、スタンを視界から隠す。
明らかな理不尽に驚くスタンと、ケラケラと笑うピケ。
側から見たら微笑ましいのかもだけど、私は真っ赤な顔を隠すのに精一杯だった。
なんで急にこんな話になるのさ、もうっ。
 




