星の巫女
「考えてもしょうがないね。ここは考え方を変えよう」
しばらく時間が経って空気がどんどんと落ち込んで行く中、スタンがここで手打ちといったようにわざとらしく手を叩いて場の空気を壊す。
「考え方って、どうしようもないのは変わらなくない?」
「それは僕らの勝手な予想さ。未来を視たって言ったって『どの』未来かは分からないからね」
「はぁ?」
ピケの率直な意見に対して、スタンは論理的というか捻くれた考えで少し前向きに考えようってことらしい。
言いたいことは何となくわかる。あの未来が起こりうる未来だとは分かるけど、未来に必ず起こることかどうかは不確定なのかもしれないから。
「どういうこと?」
「未来ってのは幾つもあるのさ。例えば僕がこうしてお茶を飲もうとした時、無事に持てる未来が一番可能性があると思う。ただそれ以外の可能性を否定することはボク達にはできないよね」
「まぁ、未来のことはわからないしね」
「つまりそういうことさ。今は無事にお茶を飲めた未来。でも中にはお茶を溢したり、手を滑らせてカップを割ってしまった未来だってあるはず」
常に未来は不確定。ありとあらゆる可能性があり、偶然が重なった先の未来に偶然私達がいるに過ぎない。
平行世界とも通じる考え方だと思う。未来とは無数にあり、私達はその中の一つしか観測出来ない。
私の未来を視る力はその無数にある未来を視ることが出来る力。
無数にあるからこそ、本当にそれが起きるのかは起きるその時まで未確定。
スタンが言いたいことはそういうことだろう。
捻くれた考え方だとは思うけれど一理はある。
「それに、スミアはその力を使い熟してる訳じゃない。意図せず未来視の力が発動したのがその証拠だよね」
「使いこなしたら好きな未来を視れるってこと?」
「僕はそう思っている。古代の英雄達でも随一と言われたアステラの未来視の力がそんな半端なものなわけがないだろう?」
未来視の力はまだ手に入れたばかりだ。今思えば、度々妙にリアルな夢を見ていたのもこの未来視の片鱗だったのかも知れない。
アステラは私に力を与えるとは言っていたけど、力そのものを与える人を待っていたというよりは力を扱える才能を持つ者を待っていたような節も今思えばあった気がする。
あらゆる意味で自分と同等の『目の良い』人を待ち続けたのだとしたら、数千年も待ち続けたことにも納得が行く。
人が良いだけでは意味がない。才能だけでは意味がない。
アステラの『目』に適う誰かが私で、私にその才能を開花させるキッカケを与えた?
全て想像でしかないけど、そうやって自分を納得させていくのも大事な工程だ。
自己の理解と納得、そして肯定的な解釈は人を強くする。
自己暗示みたいなものだ。そうだと信じて揺るがない。お姉ちゃん達だってそうやって強くなってる。
「私は無数にある未来を視れる」
「あぁ、スミアはその唯一の存在と言っても良い。たったそれだけで良い。きっと視ることそのものに意味があるんだ」
未来を視る、結末を知れる。それだけでそれを変えなきゃいけないという行動を始める。
それだけで少しだけど未来は変わるはずだ。未来を視て、それを変えるための努力をするのはその結末の未来にはきっと無い。
そう信じるしかない。
それが嫌なら使いこなすしかない。未熟な私に出来ることはまず、この力をモノにすること。
「うん、良い目になった。スミアはそうでなくちゃ」
「なにそれ」
腹が決まったら不安も自然と消えた。
私が知ってる未来を変えるためにはそれが最短距離で確実だ。
どうやれば良いかなんてわからないけど、がむしゃらにやってみる。
サラサラとペンを走らせて、無事の報告と気を付けてとだけ書く。
今はこれで良い。お姉ちゃん達が今を変えるなら、私は未来を変えてやる。
それが私のやることだ。
 




