星の巫女
何が起きている。この場合は何が起きようとしている、と言った方が正しいのか。
理解も何もする間もなく、頭の中に浮かんだ衝撃的な映像はまるで水にでも溶けるように消えていってしまう。
「だめ、消えないで……!!せめて、どうしてそうなってしまうのかだけでも……!!」
結果だけ見れても意味が無い。何故、どうして、こんな未来が起こってしまうのか。
それがわからなければ回避のしようがない。
未来を視られるというのなら、そこも見せて。そう願っていると、目が熱を帯びてくる。
どうか、この未来を変える方法だけでも。
「−−いっ?!」
どうにかして、未来を視ようとした結果は目と頭に激痛が奔ることで中断せざるを得なくなってしまった。
視ることは叶わなかった。偶発的に発動した、未来を視る力がたまたま見せた悲惨な未来をどうやって変えるか。
その方法がわからないまま、頭に浮かんだ映像は完全に消えてしまった。
「ピケ!!便箋を早く!!」
「え?いや、でもアンタ大丈夫−−」
「早くっ!!」
心配そうに覗き込むスタンも、便箋とペンを片手に不安そうな目をしているピケも無視して、乱暴にピケの手から無地の便箋とペンを奪う。
奪ってペンを走らせて、すぐ止まる。
なんて書けばいい?パッシオに殺されるかも知れないから気をつけて?
あのパッシオが真白お姉ちゃんをどうにかしちゃうなんて、アレを見た今でも想像出来ない。
こんなことを伝えたところで混乱させるだけだ。せめて面と向かって話せれば、伝えられることも多いけど、文面で伝えたって伝わりきらないことはあまりにも多い。
私が事実を伝えた先の未来だったらどうする?そうでないならどう伝える?
何かがあったからあんな事になったのに、その肝心な何かがわからなきゃ説得力なんてありゃしない。
「スミア、落ち着いて。何があったのかまず僕らに教えてほしい。何を『視た』の?」
「視たって、さっきの未来を視るってやつ?スミア、ホントに視たの?」
取り乱す私をスタンが優しく諭してくれる。気が付いたら自然と息が上がっていて、肺が苦しい。
過呼吸になりかけていたことに気が付いて、落ち着かなきゃと大きく深呼吸する。
そうしてから、ピケの質問に頷いて応えた。
「……視た、よ。最悪の未来。私の姉が、姉の大切な人に殺される未来」
「……確かに最悪ね。ってことはその人が裏切ったってこと?」
それには首を横に振る。絶対にありえない。
パッシオがお姉ちゃんを裏切る。それだけはどんなことがあっても無いと断言する。
あの2人の絆は嘘っぱちなんかじゃない、恋人とか友達とか、そんなものよりもずっと太くて強い繋がり。
2人は必ず一緒にいるし、一緒にいるべきだし、そうだと皆思っている。
「でも、その人がスミアのお姉ちゃんを殺しちゃうかも知れないんでしょ?だったらそれを伝えた方が良くない?」
「ダメだよ。誤解が生まれるリスクが大き過ぎる。君のお姉さんの大切な人ってことは、パッシオーネ・ノブル・グラナーデ氏のことだね?」
ありのままを伝えるべきだと主張するピケにスタンは待ったをかける。
ピケの言う通り、ありのままに伝えることが手っ取り早いけどスタンの主張は私の主張と同じで、誤解と混乱を招くことは良くないと思っているみたいだ。
「うん」
「なら確かに有り得ないと僕も思うよ。昔会ったことがあるけど、職務に忠実な人だった。主君とも言える人を裏切るような半端な騎士じゃないよ。帝国で言うところのエストラガルみたいな人さ」
「あの堅物騎士と同じレベルなら、確かに有り得なさそうね……」
エストラガルって私達に最初に戦いを挑んで来た妖精達のリーダーじゃなかったかなと思いつつ、スタンの説明でピケが納得してくれたからスルーしておく。
問題は伝え方。手紙で誤解や混乱を生むことなく伝えきるのは難しいと思う。
何か良い案はないものかと頭を捻るけれど、妙案は浮かばないまま、時間ばかりが過ぎていった。
 




