星の巫女
悩んでいても仕方がない。思考の泥沼にハマる事は目に見えてるし、この街に来た最初の目的を達成しようと思う。
「これがあちこちにいるって言うスタンの知り合いからの情報?」
「情報って言うほどでもないけどね。一応、お金を払って雇ってはいるね」
それは良い事だ。報酬を払えば大抵のことはスムーズに行く。ただで働かせるよりは当たり前にヘイトは減るし、後は無茶な仕事を振らなければそれでいい。
よほどバランスが取れてないか、人を見る目が無い限りは労働に対する報酬は何かと大事だと学んでいる。
勿論、そのやり取りが出来る信用関係が構築されていることが重要だけど、その辺はスタンなら大丈夫だろう。
「帝国内外を含めて、信用が出来る人達を雇ってるっていうのは前にも話したと思う」
「そのうちの1人が私ね」
「一応、便宜上使用人として、僕が個人所有しているアパートメントや家の管理を住み込みで任せて、そのオマケで変わったことがあったら教えて欲しいってレベルだからね」
帝国内外に個人所有している物件がいくつもあるって、流石は王族。お金の使い方容赦ない。
このぶんだと遊び歩いているように見えても、投資か何かで相当稼いでいるのだろう。そういうところは抜け目なさそうだし。
ま、人の事は言えないんだけどさ。
「ピケにはその手紙の管理も任せているんだ。一番信用出来るし、仕事も確実だからね」
「ホントに口だけは悪いのね」
「うっさいわね」
口だけで損をしているピケは本当に勿体ない。それが本当に致命的に悪すぎるっていうのが問題なんだろうけど。
「で、それがその手紙と」
「そそ。目を通した感じは殆ど世話話だね。おっと、帝国と王国の国境近くで旧王国領に住んでいるエースって言う人から多分君のお姉さんたちの話が届いているよ」
手渡された手紙は当然妖精界の文字だから、少し読むのに苦戦しつつ、何とか読み解いていく。
ざっくりと意味を理解すると、主に朱莉お姉ちゃんの話みたいだ。相変わらず、ド派手にやっているみたいでなんとドラゴンを従えてあちこち飛び回っているみたいだ。
王家の人が再び旧王国領の主都に戻って来たという吉報は、多分真白お姉ちゃんか真広のどっちか。
予想では真白お姉ちゃんだとは思う。パッシオが絶対一緒だから、話しの通りも早そうだし。
読み取ったものからは殆どの人が王国に再集結していて、私が一番合流に苦戦している感じかな。
どうにかこのエースさんを通して、真白お姉ちゃんか朱莉お姉ちゃんに手紙を渡せないだろうか。
「うーん、エースはヴィーゼって街を取り仕切っているいわば市長みたいなものでね。かなり忙しいからなぁ。この手紙も隙間を縫ってわざわざ送ってくれているだろうから、少し時間は掛かるだろうね」
「スミアのお姉ちゃんってのもヴィーゼって街にずっといる訳じゃないみたいだし、タイミングが合えばって感じじゃない?流石に適当な人にこっちの動向を書いた手紙は預けられないし」
それでも私はスマホを壊してしまったせいで真白お姉ちゃんの魔法具『イキシア』の能力を使っても連絡を取る事が出来なくなってしまっている。
かなり心配をかけているハズだ。せめて生存報告くらいは送りたい。
「ま、タイミングが合えば大丈夫なわけだし。どのみちここからヴィーゼって街となると相当に時間がかかる。この手紙だって半月前の手紙だ。時間は嫌でもかかる」
「それでも良いから送る。お姉ちゃん達に心配ばかりかけられないもん」
「んじゃ今から便箋持って来るから待ってて」
ピケが席を立って、便箋の用意をしてくれる間にお茶に口を付けてホッと息を吐く。これで少しは安心できる。
連絡手段を手に入れらることが出来れば、色々とやり易くなるだろうし。
「良かったね」
「うん。これで少しは安心でき――」
安心できる。そう言うとした時、頭の中に別の映像が流れて来る。何が起こっているのか分からないまま、その映像を見せ付けられた私は。
「ましろ、お姉ちゃん……?」
その衝撃的過ぎる内容に頭がくらくらとしてくる。そんなこと、絶対にありえない事なのにこの映像がこのままだと未来で起こりうる現実になるのだと強制的に理解させられる。
「スミア……?」
「パッシオ、どうして……?」
私の脳裏に浮かんだ映像には、パッシオの尾に貫かれ、真っ白な姿が血で真っ赤に染まっている真白お姉ちゃんが写っていた。




