星の巫女
「まさか即断即決即行動とはね」
「神官の人達が道理に反することをしているとは思わないからね。ユニヴェル教授から何か伝言を預かっているのかも知れないし」
アパートメントに戻ってスタンに事の顛末を話すとすぐに星の神殿に向かうことになった。
慌ただしく出た私達はそう時間のかからないうちに星の神殿の前までやって来ていて、神殿を行き交う人々の中に紛れていた。
「何もないと良いけど……」
「心配し過ぎるのも身体に毒だよ墨亜。少なくとも、僕らを害するような人達じゃない。保証するよ」
心配する私にスタンは笑顔で大丈夫だと声をかけて来る。
スタンは何度もこの街に足を運んだ経験もあり、妖精界の宗教感でモノを言っているのだから、スタンの言うことの方が正しいのだと思う。
ただ、人間界では宗教というだけで警戒度が1段階上がると言ってもいいくらいだ。
どんなに優しい人だったとしても、宗教の違いで争いになることもある人間界の宗教問題が脳裏に根付いている私からするとどうしたって警戒してしまうことだった。
「ちょっとビビり過ぎじゃない?神官から直々に呼び出しなんて無いから緊張するのはわかるけど」
「私の事情だから気にしないで。それに、1人くらい緊張感を持ってた方がいいでしょ?」
ピケも最初の方は訝しんでいたけど、今は特に気にもしないで肩の力を抜いている。
その図太さは見習っていきたい。私は少し神経質過ぎるってよく注意されてたし。
はぁ、と息を吐いて腹を括る。私だけがここで待ってるわけにもいかないし、神官さんが用事があったのは私だったっぽいしさ。
私が行かないと話にならない。聞くだけ聞いて、それから考えよう。
「さ、中に入るよ」
神殿は人の出入りが激しく、まるで初詣の神社みたいだ。止まらずに動き続ける行列が、ようやく私達を神殿の中へと導いて。
【来たか】
「……っ?!」
突然響いた声に『31式自動小銃』を抜いて周囲を警戒した。
私の行動に驚いた周囲の人々とスタン達はポカンと私のことを見つめるだけだ。
それを見て、さっきの声が私にしか聞こえていない可能性に行き着く。
【くくくっ】
「誰っ!!」
「スミア……?」
頭に響く笑い声。周囲をいくら見渡しても、私の目に写るのは私の行動に驚く人ばかりが写る。
私の目で探しても見つからない場所から話しかけている……?一体、何処から……。
警戒を解かない私に困惑気味のスタンの声を聞いているほど余裕はない。
私の目でも見つからないということは、何処から攻撃されてもおかしくない。
相手は私の目よりも優れた隠蔽能力を持つということになる。
【すまんすまん。驚かせるつもりはない。とりあえず武器をしまえ。儂はお主を害するつもりはない】
信用できるわけがない。一方的に姿を隠して話しかけて来るような輩が真っ当なものか。
後ろ暗い何かがあるから姿を隠す。そんな相手を信用するわけにはいかない。
『31式自動小銃』を構えたままの私にスタンもピケも困まっているのが見えるけど、説明したってしょうがない。
これはどう見ても私にしか聞こえてない声。説明したってわかれない。
【堅いのぉ〜。さっき神官を迎えに行かせたじゃろうに。何も聞いとらんのか?】
「神官……?」
星の神殿に来てほしいと言っていたあの神官さんのこと?あの人が私を呼んだのではなかった?
混乱する私に声の主は楽し気に笑っている。人が困っているサマを見て楽しむ性格の悪いやつだというのはよく分かった。少なくとも仲良くなりたくはない。
【まぁ良い。とにかくこっちに来い】
「来いって言ったって……」
何処に行けと言うんだ。そう言おうとした時、視界の隅にキラキラと輝くものが写る。なんだと視線を向ければ、やはりよく分からないキラキラした物が私を誘導するように帯になって神殿の奥へと続いていた。
「ピケ、行くよ」
「あ、ちょっとスタン?!スミアもどこ行くのよ?!」
『31式自動小銃』を片手に、私はその光の帯を追う。スタンも私に何かが見えているのを察したのか、ピケを伴って私の後について来る。
一体、この先に何がいるのだろうか。分からないけど、確かめる必要はどうしたってある。
緊張した面持ちで、私は神殿の奥へ奥へと進んで行った。




