星の巫女
話しかけて来たのは男性だった。風貌としては、恐らく宗教関係の人物だろう。
『カーセル』の街に入ってから、似たような風貌ないし統一感のある服装の人達が何組もいた。
信奉している神や英雄達を祀る祭壇の関係者だと推察するのは難しくない。
ただしそんな人達に突然話しかけられる覚えはない。人間界だと宗教はトラブルの引き金にもなりやすいことを体感している私は、咄嗟に懐に隠してある『31式自動小銃』に手をかけた。
引き抜きはしないがいつでも1発は撃てる。
「お、お待ちください。何をするでもありません。出来ればお話を伺いたいと思っただけですので」
そんな警戒体勢をとったことを悟ったのか、神官さんと便宜上呼ばせてもらおう。
その人はぶんぶんと手を振って敵意が無いことを示すと私を見て話がしたいのだと言って来た。
「……宗教の勧誘ならお断りよ?」
「滅相もごさいません。もし、宜しければ我々の祭壇。『星の神殿』へと御足労願えないかというお話でございます」
「『星』の連中が何の用よ。用件をハッキリ言いなさい」
「出来ればご内密な話でございまして……」
内容はすぐに明かせないが、話を聞いて欲しいなんて言われても困る。
訝しむ私達とどうにかして私と話がしたいらしい『星の神殿』の神官さんは手をわたわたと宙に彷徨わせていた。
確かに怪しいが敵意は感じられない。だからといってほいほいと着いて行くには怪し過ぎる。
「ユニヴェル教授、とだけお伝えいたします。それ以上はこの場でお教えすることは出来ません」
「ユニヴェル教授?」
「では、失礼いたします。何卒よろしくお願いします」
神官さんはユニヴェル教授と言い残して、私たちのもとを去って行った。
ユニヴェル教授とはスタンと旅を始めてすぐにスタンと訪れた星空の綺麗な町。
そこに天文の研究所を構える、妖精界の天文博士だ。
人間界の天文学とはだいぶ違う妖精界の天文学だけれど、随分と話し込んだことを覚えている。
確か、あの時も私について星からの預言があったとかだった。
創世記にいた星属性の始祖『アステラ』。その太古の英雄が私が獣の居場所を暴く術を持っている。だから守れ。
私に向けてだと思われる預言はそんな話だった。
他にも大きな戦争が始まるっていう物騒なものもあった。信じるか信じないかはそれぞれだけど、妖精界の天文学は星からの預言を受け取るための学問。
無視して良い内容でもないし、頭には留めていた話。
そんな話をしてくれたユニヴェル教授の名前を出されるとそれらの預言についてかユニヴェル博士本人についての何か、か。
「ユニヴェル教授、って帝都の学会を追放された人よね。その人がどうかしたの?」
「旅の初めの頃に知り合ったの。とても良くしてくれたわ」
「ふぅ~ん?」
そうも気になることを言われれば逆に行かないワケにもいかない。私がユニヴェル教授と知り合いだということを知っているのは教授のお母さまと息子さんくらい。
それに『星の神殿』。ということはおそらく祀っている英雄は星属性の始祖『アステラ』。ユニヴェル教授曰く、私を綺羅星と呼んで守るように預言した存在だ。
どんな存在なのか興味がある。何故私を名指ししたのかも気になるところだ。
「で?どうするの?行くつもりの顔してるけど」
「スタンを呼びましょ。流石に私とピケだけじゃ不安」
「歴史オタクの知識量なら色々質問も出来そうだしその方が良いわね。早く戻りましょ」
最初はノリ気じゃなかったけど、行くことにする。ユニヴェル教授、星の神殿、アステラ。
気になる情報が目白押しだ。ピケからあれこれ聞くハズが、まさかこっちの方が先になるなんてね。
せっかちなピケを追いかけてアパートメントに戻る。変なことにならないことだけは祈っておこう。




