星の巫女
好きというのはLIKEだろうか、LOVEだろうか。
なんて現実逃避が一瞬頭を過ぎるけど、今の文脈からして、何より急にしおらしくなったピケの様子を見ればわかる。
騒がしく、ガサツとも言えてしまうピケが伏目がちになりながら恥ずかしそうに聞いて来たのだ。
私だって世間一般的に言えば年頃の女の子。恋バナの一つや二つを耳に挟んだことはあるし、巻き込まれたこともある。
LOVE。恋愛対象として、私がスタンを好いているのか。ピケはそれを聞きたいらしい。
おそらくは自分の恋路の障害になり得るか、それを確かめたいのだと思う。
探り、というよりは直球勝負。ピケらしいとは思いつつ私は答えに困ることになった。
「……えっと」
なぜならピケがスタンの従者とはいえ、どこまで聞いているのかまでは彼からまだ知らされていなかったからだ。
私達は名目上、婚前旅行をしていることになっているけどその実態は帝国王家や政治の視線から逃れ、広く情報を集めたり、仲間を増やし、合流することが目的のものだ。
帝国内では王に近過ぎて身動きが取りづらかったスタンと、帝都から安全に脱出したかった私。
2人の意見と目標が合致して生まれたこの策は概ね順調に進んでいて、着実に第一目標である帝国領内からの脱出に近付いていた。
「えっと?」
「その、何というか……」
このピケの問いは下手に答えるとその目的の達成を阻害しかねないもの。
ピケは非常に優秀だ。口以外は。その口が致命的。
思考と口が直結しているタイプのピケに、スタンが私達だけの秘密である建前だけの婚前旅行による帝国脱出計画を伝えているか。
私だったら伝えない。ピケがうっかり誰かに漏らしてしまう可能性を私は捨て切れないからだ。
ただし、スタンはそうではないかも知れない。スタンはそもそもピケとは幼馴染のような関係だ。
私よりピケがどのくらいまで口を滑らせないのか、スタンはその判断材料を多く持っているし、彼女に対する信用の度合いも違うだろう。
ピケがスタンに好意を寄せているのは誰が見てもわかる。
スタンは歴史オタクで私よりも弱いけど、頭はキレるし頼りになるところは間違いなくある。
顔も良いし家柄なんて最高位の王族だ。女の子が好きになる理由はいくらでもあるし、先ほど聞いたピケの境遇を聞けば彼女がスタンに恋慕を寄せるのも理解が出来る。
だからこそ、困った。
何処まで私たちのことを知っているのか、知っていたら正直に答えればいい。
問題は知らなかった時。下手に答えれば彼女は私達への協力を止めるかも知れない。
恋は盲目。なんて言うけど、人によっては本当に恋愛のことしか考えられなくなって暴走する人がいることを知ってるし、横恋慕なんて地獄の様相は避けたい。
そんなことをしている暇はこっちにはないんだから。
「おーい。2人とも、こっちで休まないのかい?」
初めて遭遇した事態に、私は冷静にテンパっていた。ぐるぐると回るだけ回って答えの出ない思考の渦に飲み込まれかけた時、スタンから声をかけられて私達はハッとする。
内容はスタンに対する気持ちのこと。ピケにとっては彼にこそまだ隠しておきたい気持ちのハズだ。
「今行くわ!!……ごめん、あとで」
彼に悟られるのはピケも望んでいない。それを利用して、私はスタンの呼びかけに答え、足早にその場を後にする。
ピケも黙って後ろをついて来て、私達は素知らぬ顔でスタンが先に休んでいる部屋へと入った。
「遅かったね?何か盛り上がる話でもあった?」
「スタンの愚痴よ。語り出したら長いところとかね」
「歴史オタクもやり過ぎだとキモいし」
「やぶ蛇だったか……」
2人で話を誤魔化して、スタンに冗談よと笑いかけながらピケに荷物を預けて椅子に腰掛ける。
座り心地の良い革張りの椅子は相当上等なものだと思う。お父さんが好きそうだ。
そしてピケが私とスタンから預かった荷物を手に、部屋から出たところで私はスタンからピケに何処まで話してあるのかを聞き出すべく、彼に耳打ちをするため顔を近付けた。




