魔法少女はじめました
そんな感じで俺は時たまこうして学生に間違われ、お巡りさんや教育委員会の関係者などに職質というより補導される事がある。いや、ホント勘弁してくれ
「名前は小野真白。歳は26なんですけど……」
「26?悪いけどそうは見えないなぁ。身分証はある?」
「ちょっと待ってください。……あー、無いっす家ですね」
「それじゃあちょっと悪いけど信用出来ないなぁ。家の住所は?ご両親は一緒に?」
「一人暮らしっす。住所は市内の大根畑2-3、ファーハイム102っす」
「うーん、信じたいところだけどお巡りさんこれも仕事でね?悪いけど、ご両親に連絡は出来る?」
「それはちょっと遠慮したいですね」
「参ったな。それだとちょっと駐在所で話聞くことになっちゃうんだよなぁ。小野さんの言う通りなら失礼だけど。学生にしか見えないからねぇ」
「ですよねー」
お巡りさんには悪いが、両親と連絡だけはマジで拒否だ。あれとは会話の一つもしたくない
故にこのままだと駐在所でしばらく押し問答をするしかないなと腹をくくった、その時だった
「あれ小野君?」
ふと聞こえて来た女性の声が、俺の名前を呼んだのだった
「いやー、助かったよ雛森さん。あのままだと駐在所まで連行されるところだったんだ」
そこに現れたのは高校の頃の同級生、雛森 鈴。高校時代のわが校のアイドル的な存在で、卒業したら進学のために上京したと聞いていたが、まさかこんな東北の田舎に帰って来ているとは思わなかった
トレードマークの大きな眼鏡と、ショートポニーが当時と変わらないまま、ふわりと揺れている
「私も、まさか小野君に会えるなんて思ってなかったよ、びっくりするくらい変わってないんだもん。それに風の噂で海外で仕事してるなんて聞いたからさ。今はどうしたの?休み?」
「……その仕事は辞めたんだ。今はその退職金で絶賛NEET中。雛森さんはなんでこっちに?」
「あー、そうなんだ。私は東京で就職したんだけど、偶然こっちの部署に配属になって、帰って来たんだ。ホントは今日は振替の休日だったんだけど、今朝急な仕事があって、爆速で片付けてきたところ」
そんな彼女に偶然助けられ、彼女の証言の元、俺の年齢が確かに26だと分かって、お巡りさんはペコペコ謝って去っていった。良い人だから頑張って欲しい
ともあれ、彼女は中々忙しいご身分らしい。貴重な時間をこんなことに消費させてしまって申し訳ない
「折角久しぶりに会ったんだし、ご飯どう?」
「あー、ありがたいんだけど、ご飯食べるならコンビニの方が都合が良いんだよね」
そう言われ、はてなマークを浮かべる彼女にその原因を見せてやるためにフードを揺らす
すると、中に隠れていたパッシオがチョロチョロと肩に駆け上り、如何にも小動物チックな鳴き声で鳴く
「コイツがいるもんで」
「か、かわいいいいいぃぃぃっ!!」
そのあざとい仕草に見事に騙された雛森さんに若干の罪悪感を感じながら、パッシオが変なボロを出さないように、目で訴えておいた
ちょっとデレデレしてるのばれてるからな、お前
「なんて種類の動物なの?!」
「詳しいのは聞いて無いんだ。知り合いが飼えなくなったからって譲って来たんだけど、種類とかあんまり興味無かったからさ。ただ、滅茶苦茶頭が良いから、こうして一緒に散歩出来るんだ」
「へぇ~、良い子なんだね君。あ、だから飲食店は入れないんだ」
「流石にね」
入っても良いが、その場合はパッシオはずっとフードの中だ。それは流石に可哀想だし、お互い腹が減っているのは先程確認済み
そこで一人だけ美味いものを食うのはちょっと気が引ける
雛森さんには悪いが、食べるならコンビニが一番都合が良いのだ
「じゃあ、コンビニでご飯買って、近くのベンチにでも座って食べようか」
「幸い、今日は曇りだしね」
季節は8月。晴れていたら外で食べるなんて、とてもじゃないが出来ないだろう。ジメジメとした嫌な天気だが、今回ばかりはちょっとラッキーな天気だと思った